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「清志、お前は正継(マサツグ)さんの事を、どの程度知っているんだ?」先頭を走っていた岩倉が振り返りながら尋ねた。正継と言うのは清志の父親の名前である。 「どの程度って言われても……昔は何かの技術者だったって聞いたけど、夜勤でコンビニの弁当工場で働く、飲んだくれのオッサンだよ」  清志の返事に岩倉が悲しげに苦笑いを浮かべた。 「お袋の雅(ミヤビ)さんの事は何も知らないよな?」岩倉が言いながらフェンスの最終地点にあったマンホールの蓋を持ち上げた。  地下へと伸びる鉄梯子を降りる。 「ここは!?」地下に降り、瑞希に懐中電灯を渡された清志が尋ねた。下水道と思っていたが、そうではない。廃墟のような通路が続いていた。 「震災前に栄えた地下街よ」瑞希が答えた。  懐中電灯の光で辺りを見渡すと、確かに通路の両脇に並ぶのは何かの店舗のなごりである。  岩倉が慣れた足取りで先頭を歩き出すと、再び清志に話し出した。 「雅さんはAI技術の研究者であると同時に、脳医学博士でもあった。正継さんはそのAI技術研究所の所長。初耳だろ?」振り替えって清志にニヤリと笑いかけた。  清志が無言で頷く。そもそも母親の雅は、清志を産んで直ぐに他界しているので、ディスプレイ上の静止画や動画でしか姿を見たことがない。
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