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 騒音めいた、蝉の鳴き声で目を覚ました松山清志(キヨシ)は、慌てて腕に巻かれたブレスレット型PCに目を向けた。  七時三十五分。デジタル表示された時計部分を見る限り、毎朝六時にセットしてあるアラームを聞き逃したわけではなく、無意識に止めてしまったようだった。 「お前、本当に鳴ったのかよ!?」ブレスレットPCに向かって呟きながら、盛大なため息をついた。  清志の通う高校迄は三キロ程の距離だ。走って行けば間に合わない時間ではないが、窓の外の蝉の大合唱を思うと気が引けていた。  不意に清志の目の前の空間に、10インチ程のホログラムディスプレイが現れた。 「清志、まだ間に合うべ。急いで着替えでけろっ」ディスプレイに映し出された金髪の美少女が、何故か東北ブロックに伝わる方言で告げた為に、ひどくミスマッチな印象を与えた。  少女の名前はソニア。小学生のような幼い容姿だが、ブレスレットPCに連動したAIである。ブレスレットPCは本体がブレスレット部分で、モニターは空間にホログラム映像として現れる仕組みだが、これは先端技術ではない。ランクCの下層民である清志が持てるPCの技術力など、たかが知れており、ブレスレットPCは下層民の使う、標準的なモバイルだった。 「そうは言っても、外暑いよ。めんどくさいじゃん」無気力に言う清志に、ディスプレイから抜け出し、妖精のような立体ホログラム映像となったソニアが答えた。 「今日は一学期の終業式だぁず!サボれるわげねえべしたっ!」不機嫌かつ極悪なティンカーベルと言った印象のソニアが、そう言いながら清志の肩に乗った。 「急がねどオヤジさんが夜勤から帰って来っず。早く着替えろ、ダラっ!」  ソニアに促されて、顔を洗った清志が家を出たのは起床後五分と言う、のんびり者の清志としては記録的なタイムだった。
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