トイレのはなこさん達-2-

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トイレのはなこさん達-2-

 某小学校。  二階の四年生のトイレには、ある噂がある。  五つある個室の真ん中のドアをノックして、こう呼ぶと返事があるという…… 「花子さん、花子さん」  華子…十五歳。幽霊が見える受験生。  花子…<トイレの花子さん>とは彼女のこと。永遠の十歳。  メリーさん…七日間、電話口で『今、あなたの……』と言う恐怖の怪談話で有名なお嬢様幽霊。七回目のそれを聞いた人間は死ぬらしい。  ある小学校のトイレの洗面台前にふたつの人影。  華子、スマホを握り締めている。  花子、スマホに付いているふたつのしめじ人形を満足げにつんつんするふりをしている。 華子「……ねぇ、花子。呪い、ってあるの?」 花子『は? どうしたの? 急に」 華子「あるの? ないの? ねぇ、どっちなの?!」 花子『どっ、どうしたのよ? また不幸の手紙でももらったの?』 華子「あれはもう慣れたわよ!」 花子『慣れるまでもらってたんだ……でも、そんなもんよ、呪いって』 華子「……ということは、やっぱりないってこと?」 花子『ないわけじゃないわ。もらっていた時、ハナは『不幸になる』って思ってたでしょ? 現に不幸だったろうし』 華子「う、うん、まあ……」 花子『それが、呪いの正体。相手の心に影を落とす。十枚送れば、ひとり気にしてくれればいいのよ。何か悪いことがあれば『不幸の手紙』のせい。それを誰かに言う。信じてまた十人に送る。呪いは永遠に続いましたとさ、ってなるわけ』 華子「じゃあ、気にしなかったら、……いいのね?」 花子『ほんとどうしたの? 新手のそんなのが始まったの?』 華子「……気にしなかったら、わたし……死なない?」 花子『はぁ?』 華子「この電話、気にしなかったら、わたしは死なないのね?!」  華子、スマホを花子に見せる。 花子『このスマホがあんたを呪ってんの?』 華子「違うわよ! 電話がかかってくるの!」 花子『呪いの電話?』 華子「そう! 七日前に初めてかかってきて……『今、あなたの……』って言うの!」  花子、ものすごく嫌そうな顔をする。  が、華子は気付かず。 華子「最初はわたしもイタズラかなって思ってたの。『今、あなたの町にいるわ』って。なんのこっちゃ?じゃない? だから気にしなかったんだけど、次の日に『今、あなたの学校の前にいるわ』って言ってきて……ストーカー?って思ったんだけど、どう聞いても、花子くらいの女の子の声なの。で、でも、花子以外に女の子と話すことなかったし、最近電話番号を教えた子もいないし……知っての通りわたしに友達いないし!」 花子『そうね』 華子「そこだけ同意しないでよ!」 花子『いや、してほしそうに強調するから』 華子「でねっ、次の日は『今、あなたの教室前にいるわ』で……その次の日に、『今、あなたの塾の前にいるわ』だったの! わ、わたし、その日塾で、慌てて外を見たんだけど……誰もいなくって……怖くなって……」 花子『当ててあげましょっか?』 華子「なっ、なにを?」 花子『次に『あなたの家の前いるわ』、その次に『あなたの部屋の前にいるわ』……そして、今日……』 華子「やっ、やめてぇ……!!!」  スマホが鳴り、華子は驚いて取り落としそうになる。 華子「ひッ……!」 花子『出て』 華子「いっ、嫌よ!」 花子『いいから!』 華子「鬼ぃ!」 花子『おばけです』 華子「どっちでもいいしょ?!」 花子『いいから!』 華子『(渋々)……うぅ、…………は、はい?』  メリーさん、トイレの入り口に来て。 メリーさん『今、あなたのうし…………げっ!』 花子『やっぱりあんたか、メリーポピンズ』 メリーさん『違うよ?』 花子『今日も無駄にフリフリしてるわね』 メリーさん『万年赤ワンピのあなたもどうかと思うわ!』 花子『まだやってたの? こんなこと』 メリーさん『それはそっくりそのままお返ししますわ、トイレの女王』 花子『トイレの神様みたいで悪くないわね』 メリーさん『皮肉よっ、嫌味よ! 気付きなさいよ!』 華子「……知り合い?」 花子&メリーさん『違います』 華子「知り合いなんだ」 メリーさん『てか! なんで人間があなたと知り合いなんです?! 花子!』 花子『友達よ。かくかくしかじか、あれこれ事情がありましてね』 メリーさん『全く分からないわ!』 花子『それよりも! 呪いの七日間電話、ハナにかけてたのね』 メリーさん『そうですわ。この子は今日で死ぬの』 華子「やっ、やっぱりぃ?! ねっ、ねぇ! なんとかならないの?! 花子!」 花子『もっと早くに言ってくれればよかったのに』 華子「早く言えばなんとかなったの?! じゃあもうどうにもならないの?!」 メリーさん『ええ、そうですわ』 華子「あんたが言うなぁ!!!」 メリーさん『わ、わたくしがかけた本人なのに?』 花子『メリー、頑固だからなぁ』 華子「頑固とかそういう問題なの?!」 メリーさん『一度狙った獲物は逃しませんわ!』 華子「あんたは黙っとれい!!!」 メリーさん『なんなのこのひと?!』 花子『でも、まあ。今のやり方は気に入らないのよねぇ』 メリーさん『……それは聞き捨てなりませんわ』 花子『最後に死を、それ、安易過ぎるし』 メリーさん『ここでこうして出るだけの甘っちょろいあなたなんかに言われたくなくってよ!』 花子『脅かす美学に文句つけないでくれる?』 メリーさん『わたくし達には恐怖が必要なのですわ! 死、それは生きている者達にとって最大級の恐怖! それを活かすことこそ、わたくし達が求める美学ではありませんこと?!』 花子『だから! それが安直だって言ってんのよ! 大人になって、『あぁ、あの時、あんなおばけがいたなぁ』『子ども頃、ママもすっごく怖かったわ』ってぇ、懐かしんでもらえて、子に語り継がれる恐怖! これこそっ、おばけの脅かす美学よ!』 メリーさん『わたくしに言わせれば、そここそ安っぽいですわ! 現状をご覧になって? こんなとこにいつまでもいらっしゃるから、腕もなまってらっしゃるんじゃないの?』 花子『っんだとこら』 華子「ちょっちょちょ、花子、落ち着いて……メリーさんも」 花子&メリーさん『生きている人間は黙ってろ!』 華子「あ、はい」 メリーさん『人間は刺激を求めてますわ。わたくし達も死に物狂いで脅かさなければなりません!』 華子「(蚊帳の外から)もう死んでるけどね、ふたりとも」 メリーさん『いつまでも過去の栄光に固執し続ければ、(華子をびしッと指差し)こんな人間が増えてしまいますわ!』 華子「わたしは特別だと思うけどね」 花子『それこそ笑っちゃうわね、メリー。人間に合わせて、美学を捻じ曲げているとしか思えないわ。前のあんたなら、黒電話が鳴り止まないくらい一週間たっぷり『今、あなたの…』電話を嫌がらせのようにして」 華子「それただの嫌がらせっ」 花子『最後に、その真っ青でガリガリの顔を人間の眼前につきつけて、か細く濁声で『今、あなたの目の前にいるの』って一週間混沌とさせるくらいだったのに』 華子「怖ッ」 メリーさん『濁声とは失礼ね。でも、もうそれじゃ生き残れないのよ、花子』 華子「二度目ですけど、死んでますから、あなた。それに、呪いからずれてきている……わたしには好都合だけど」 メリーさん『驚かす美学……正直、あなたの言うそれを追い求めたいですわ。でも、時代は移り変わっているんですの! 最近は非通知設定で取ってももらませんし!』 華子「ええ、ええ、取らなきゃよかったよ!」 メリーさん『だから、久々の獲物! この子の命は、今日、今、この時までですわ!』 華子「えぇ?! 戻ってきたぁ?!」 花子『それはもう仕方ないけど』 華子「えっ?! 仕方ない?! いいの?! わたし死んじゃうよ? いいの?!」 花子『そしたらずっと一緒じゃん』 華子「ソッコー成仏してやるよ? あたしゃソッコー成仏するよ?」 花子『ええぇ?!!!』 華子「『ええぇ?!!!』じゃないよ! 当たり前でしょうが!」 花子『当たり前じゃないのがここにいるから』  花子、メリーさん、肩を組んで並ぶ。 華子「いやっ、んなことで結託しないで」 花子『成仏するんじゃなぁ……つまんない』 華子「うん、つまなくなるよ? つまんない? うぅ、うん、つまんなくなるよ?」 メリーさん『論点がずれて来てますわ』 華子「わたしもそう思う。でも、生きるか死ぬかの瀬戸際だから、ちょっとあんたは黙ってて!」 メリーさん『またですか?!』 華子「それにもしここで死んで、幽霊になったら、『メリーさんっていう幽霊が非通知で電話をかけているから気をつけて!』って枕元で風潮してやるぅ!!!」 メリーさん『そっ、それは困りますわ!!!』 花子『うぅん、根本的なこと言っていい? メリーポピンズ』 メリーさん『違うよ?』 花子『あんた、さっき言えなかったよね? 『あなたの後ろに』って』 メリーさん『…………あっ』 花子『呪いの言葉を言えないおばけってどうかと思うねぇ』 メリーさん『うっ、……うぅ……』 花子『『あなたのうし』ってなに? うふふふふ。あっ、今更言い直すなんて恥ずかしい真似、しないわよねぇ?』 メリーさん『(ハンカチ取り出して口に咥える)キィ……!』 花子『いいのかなぁ? これをみんなにバラしちゃってもぉ? 恐怖のおばけ上位のメリーさんが、呪いの言葉を言わずに人間を連れてっちゃったぁ、なんて噂が広まったら大変よぉ?』 メリーさん『そっ、それは……それだけはぁ……』 花子『どうするのぉ? わたし、結構口が軽いのよねぇ。ここにいるから、学校のおばけ達みぃんなと仲良しだしぃ、転々とする子もいるから、その子が他の学校でもぉ……』 メリーさん『言わないでぇ! お願い! きょ、今日は諦めるからぁ……!』 華子「ほんと……?」 メリーさん『……ええ、諦めますわ……でも! また非通知を取る時があれば、その時は覚悟しておきなさい!』 華子「そう言われたら、もう取らないから」 メリーさん『はぅッ! はなこ達、おっ、覚えてらっしゃい!!!(目元を押さえながらダッシュで逃げる)』 花子『あぁあ、泣いちゃった……』 華子「悪いことしちゃった、かな……」 花子『いいんじゃん? これくらいでへこたれる子じゃないし」 華子「わたし、もう大丈夫なの?」 花子『たぶんね』 華子「たっ、たぶんっ?」 花子『これであんたが気にし過ぎて、帰りに事故ったら、メリーの勝ちよ』 華子「えっ?!」 花子『だから、言ったでしょ? 呪いなんてものは、そういうものだって。だから、覚えていてあげてね、メリーのことも』 華子「え?」 花子『おばけは、そうやって生き残ってくんだから』  ~おわり~
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