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夜の7時過ぎ。 お祭りの影響か、今夜はさすがに紫澤すら来ない。 珍しく店内も閑散としている。 特にやることの無い俺は、お洒落なジャズがかかる店内でグラス磨きに精を出していた。 すると、オープンキッチンの中で食品発注の確認をしていた副店長が声を掛ける。 「高遠君、今日はもう上がっていいよ。これ以上人も来ないだろうし……」 「あ、でもグラス磨きが」 そう言いかけた瞬間、店のドアが開く音がした。 慌てて俺はグラスを磨く手を止め、入口へと急ぐ。 こんな日に祭りでは無く、カフェに来るなんてもの好きな客だな。そう思い視線をそのもの好きへと向ける。 「……あ」 「よぉ」 そこには浴衣姿の翔琉が何やら片手に大荷物を抱えて立っていたのだった。 「え、何で?」 「何でって、俺ここの常連だろうが」 「でも、今日祭りで。(かけ)……いや、龍ヶ崎様もトークショーがあるんじゃ」 写真より艶と色気が溢れ出ている浴衣姿の翔琉を目の前にし、バイト中であることを忘れ思わず見蕩れそうになる。 「もう終わった。副店長!悪いけど、高遠君と個室を借りてもいいですか?」 オープンキッチンにいる副店長に聞こえるよう翔琉は声を張り上げる。 ニコニコした笑みを浮かべた副店長が出て来て「いいですよ」と許可を出す。 ……俺と個室を借りる許可を貰ったけれど、一体翔琉はナニをするつもりなんだ? これから個室で起きようとしている出来事に、皆目検討が付かない俺の胸は激しく高鳴る。 「急ぐぞ」 翔琉はそう言うとすぐさま俺の手を引き、かつて高い金を積んで予約したVIP個室へと俺を引っ張っていったのだった。 勢いよく閉めた密室で2人きり。 えっと、俺……これからまさか翔琉とそういう(、、、、)展開になっちゃうのか?! いきなりディープな夏の思い出作りか?! そう1人内心慌てふためいていた俺は、次の瞬間壁際に追い詰められ、いわゆる“壁ドン”をされる。
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