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「浴衣デート、するぞ」
いつもより低い声色でそう呟いた翔琉は、躊躇なく俺のギャルソンの制服ボタンに手を掛ける。
「ちょ、ちょっと翔琉待って下さい!」
男同士とはいえ、翔琉に脱がされる事実に羞恥を感じた俺は自身で脱ぐことを提案する。
一瞬舌打ちをした翔琉だが、「仕方ない。時間がないから」と俺に背を向ける。
翔琉がスタイリストから買い取ったという俺用の濃紺の浴衣はサイズがぴったりで、元モデルでスタイリングも自らしていた翔琉の目利きの正確さに驚く。
慣れない腰帯に格闘しつつ、何とか着られたことを告げると全身に絡み付くような翔琉の視線を感じる。
そして、へにゃりとなっていた俺の茶色の腰帯の結び目を直す為に、翔琉がキスできそうな距離まで俺に近付く。
いつも翔琉が纏っているムスクの香りがふわりと俺の鼻を掠め、自然と官能的な気分になっていく。
これは夏が見せるマジックだろうか。
否、翔琉が芸能人だからだろう。
そう自分に言い聞かせる。
「よし、できた!やっぱり浴衣、似合うな。無理してでも颯斗とのデート時間作って良かったな」
笑顔を見せながら話すその言葉に、俺は平静を装えず今度こそ顔に出る程赤面してしまう。
何故この男は、こういつも素直な気持ちを……俺が嬉しくなるような、ストレートな気持ちをぶつけてくれるのだろうか。
それなのにいつも俺は独り疑ったり、不安になったり……。
10という年の差があるとはいえ、自分の器の小ささに思わず悲しくなってしまう。
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