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「颯斗、何か食べるか?」 朱と白の提灯に照らされた祭りの夜は、どこをみても熱気で溢れる人ばかり。油断したらすぐにでも翔琉とはぐれそうだ。 そんな翔琉は外へ出ても変装1つせず、トークショーのままの浴衣姿で堂々と俺の横に並んで歩いていた。 「それにしても、よくこんな人混みの中で変装せずに平気で歩けますね」 感心した俺は、顔一つ分背の高い翔琉の顔をちらりと見つめる。 「よく言うだろ『木の葉を隠すなら森の中』ってさ。このお祭りは土地柄なのか、昔から芸能人や著名人がその辺にゴロゴロといるから俺が普通に歩いていても周囲は案外気が付かないもんだ」 そう言って翔琉は一番最寄りにあるチョコバナナの出店を指差し、もう片方の手で俺の手をそっと握った。 不思議とこれだけの人混みの中だというのに、先程のカフェの時の様な羞恥心が俺には全く無かった。 むしろ嬉しすぎて何だかむず痒い気分だった。 促されるまま翔琉に手を引かれてその列の最後尾に並ぶと、すぐさま周囲が騒々しくなる。 本人は、「気付かないもんだ」そう言ったものの世間の反応は違ったようだった。 あっという間に翔琉と繋いでいた手は離れ、周囲を取り囲まれた翔琉のその姿は完全に見えなくなってしまう。 気が付けばその人集りから外れたところに俺は独りぽつんと立っていた。同時に、出店へ並んでいた客が全て翔琉へとなだれ込んだ為、待ち時間無くチョコバナナを手にできる権利を獲得してしまう。 翔琉がいるであろう人集りの方へと一瞬、視線を向ける。 だがこの人混みの中、翔琉の頭すら確認できない俺は軽く諦めの溜息を付き、そのまま定番であるダークブラウンのチョコがかかったものを1本だけ頼みその場を後にしたのだった。
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