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3
私、どうかしてた。弘果の言う通りだ。同窓会なんてきっと裕君はいい気持ちがしなかったに違いない。彼は優しいから、ああやって私を送り出してくれたけど、その優しさに甘えるなんて、ぁあ~私のバカっ!
店を出た私は小走りで駅に向かっていた。その時。
「美月っ」
名前を呼ばれて立ち止まる。振り返るとそこには蒼佑がいた。
「え?蒼佑?どうしたの?」
「ばか、どうしたのじゃねぇよ。帰るなら帰るで言えよな」
「あ~、うん、ごめん。でもほら、しらけさせちゃうといけないから」
蒼佑は少し笑うと、私の頭にぽんと手を置いた。
「お前ってそういう変な気の使い方するとこ、全然変わらねぇよな」
思ってもいなかった蒼佑の言葉に、少しだけ鼓動が早まるような思いがした。
「えっと、そうかなぁ、って、蒼佑こそ、相変わらずそういうとこ気がついちゃうんだね」
「あ~、まぁ、お互いそんなに変わってねぇんだな。帰るんだろ?送ってくよ」
「え?いいよ、そんな悪いよ、みんなと久しぶりに会ったんだし蒼佑はゆっくりしていきなよ」
そう言ったものの、蒼佑は既に通り端に出てタクシーを止めていた。
「大丈夫だよ。実は俺もこのあと仕事なんだよね。ほら乗れよ」
そう言って蒼佑は私の背中を押した。
「うん・・・、じゃぁお言葉に甘えて・・・・ありがとう」
私がタクシーに乗ると後から蒼佑も乗ってきた。
「で、どこ?家」
「あぁ、吉祥寺・・・駅からすぐだから、まずは駅に向かってもらえたら・・・・」
「了解。運転手さん、吉祥寺の駅にとりあえず向かってよ」
慣れた様子で運転手にそう言った蒼佑を見て、私は思わずくすりと笑った。
「え?なに?どうした?」
「ううん、ごめん。やっぱり大人になったんだなぁって、思って」
「はぁ?なんだそりゃ?」
「だってさ、10年前はこんな風に蒼佑にタクシーで送ってもらう日が来るなんて、思ってもいなかったもん」
「あぁ~、まぁそうだな。俺らの学校バイトも禁止だったから、みんな金なかったしなぁ」
「そうそう、あ、でも賢人はこっそりやってたよね?」
「あ~、そうだったかも。それでバイトしてた店に先生来たとかで、あいつすっげー焦ってさぁ」
表参道から吉祥寺までの30分足らずの時間を、私は蒼佑とまるで10年前に戻ったかのように、笑い合った。吉祥寺の駅からはほんの2分程度でマンションにつく。マンションの前にタクシーを止めてもらうと、私は改めて蒼佑に頭をさげる。
「送ってくれてありがとう。今日は会えて嬉しかった」
「うん、俺も・・・・なぁ・・・、美月・・・・」
「ん?」
気のせいだろうか。蒼佑がなぜか今にも泣きそうに見えた。でもそれはほんの一瞬のことで、蒼佑はすぐに10年前と変わらない、快活な笑みを浮かべた。
「またな」
「うん」
タクシーを見送って、私は駆け足でエントランスへ向かった。一刻も早く裕君に会いたい。安心させてあげたい。そのまま一気に彼の待つ部屋へと向かいドアを開けた。
「裕君、ただいまっ!」
靴を脱ぎ棄てて、裕君の待つ部屋の扉を開けると、彼の優しい眼差しが私を移す。そのまま彼に抱き着いた。
「裕君、ごめんね。今日ね友達に言われたの。同窓会なんて彼は気が気じゃないんじゃないかって。私、裕君の気持ち全然考えてなかったよね。本当にごめんなさい」
彼の手をとり、自らの頬に当てるとひんやりとした彼の温もりが伝わった。と、その時、家のインターホンが鳴り響いた。
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