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4
「誰だろう?あ、いいよ、私出るから。裕君は待ってて」
そう彼に告げて、私はモニターを確認する。が、そこには誰も映っていない。不審に思っていると再びインターフォンが鳴った。どうやら、エントランスではなく、玄関先に来ているらしい。私は恐る恐る玄関ドアの前に立つと外に向かって声を上げた。
「どちら様?」
「俺・・・・・・」
「え?蒼佑?」
どうしたのだろう。車に忘れ物でもしたのだろうか?恐る恐るドアを開けると、そこには知らない男が立っていた。
「っ!」
慌ててドアを閉めようとすると、すぐにドアの間に手を入れられドアを閉めることができない。
「あのっ、何ですか?警察呼びますよ」
「我々が警察ですよ」
「え?」
見れば見知らぬ男が2人。その後ろに俯いた蒼佑がいた。
「ちょっと、蒼佑っ、これはなんの冗談なのっ?」
蒼佑は私の言葉には答えずに、黙って俯いていた。
「米倉美月さんですね?」
ドアの前に立ち、片手をドアに突っ込んだままで男が言った。
「・・・・・・そうですけど・・・・」
「お宅の中を見せてください」
「は?なんでそんなっ・・・・無理です。帰ってください」
私がそう言うと、男は隣にいたもう1人の男に目配せをした。すると隣にいた男がスーツの内ポケットから1枚の紙を取り出しそれを広げて私に見せた。
「令状です。お宅の中を見せていただけますね?」
「あ・・・・・・」
瞬間、私は裕君がいる部屋の前まで走った。男達はすぐに家の中へと流れ込んできて、私が背中で庇っている裕君の部屋の前までやってきた。
「米倉さん、そこをどいていただけますか?」
男の言葉に私は首をふる。
「手荒なことはしたくありません。そこをどいてください」
「駄目ですっ!」
叫ぶように言った時だった。男たちの背後から蒼佑が出てきた。
「美月・・・・」
「蒼佑・・・・ねぇ、お願いやめさせて、こんなの酷いっ」
「じゃあ、お前が後ろに庇っているその中を見せて」
「っ!駄目だよ」
「どうして?そこにいるんだろ?大崎裕希が・・・・」
「駄目よ、裕君の部屋には入らないでっ!裕君は私にしか会わないの。だからっ、だからっ・・・・」
「美月ーーーーーーっ」
叫ぶように私を呼んだ直後、私は蒼佑に抱きしめられていた。
「美月っ・・・・頼むよ・・・・お前・・・どうしちゃったんだよ・・・どうして・・・どうして・・・・」
「蒼佑・・・・?泣いてるの?」
「なぁ、美月・・・・、お前が背中に庇ってるのは・・・・部屋なんかじゃねぇだろ?」
「え?・・・・何言って・・・・ここは裕君の部屋・・・・だよ」
「違うっ、違うだろっ!お前が部屋と呼んでるのは、冷蔵庫だっ!」
耳元でそう叫んで、蒼佑は私を抱きしめる腕に一層の力を込めた。
「・・・・・・・蒼佑・・・・?なに・・・・言ってるの?」
どうしてだろう。体中の力が抜けていくような気がした。蒼佑は私を抱きしめたまま、数歩横にずれると後ろにいた男たちがすぐに裕君の部屋の扉を開けた。
「いました!大崎裕希です!」
その声にはっとして、私は蒼佑を振りほどくと裕君の部屋の前にしゃがみこんでいる男を突き飛ばし、裕君に抱き着いた。
「やめてーっ!こないでっ!どうして、私と裕君の幸せをじゃまするのっ!裕君ごめんね。今帰ってもらうから、大丈夫だからっ!」
そう言って彼のヒンヤリとつめたい頬に手を当てると、伏し目がちの彼の視線に入るよう、彼を覗き込んだ。
「裕君、大丈夫だから」
「美月っ、もうやめろっ」
再び背後から蒼佑が私を羽交い絞めにして、裕君から離された。
「蒼佑っ、やめて!どうして私たちを引き離すのっ!裕君には私が必要なのっ!」
「違うっ!違うだろっ!美月、お前どうしちまったんだよ。ちゃんと・・・・ちゃんと見ろよ。あいつはっ、もう死んでる!」
「・・・・・・・え?」
「お前が・・・・・お前が・・・・・殺して冷蔵庫に入れたんだよ・・・・」
背後から聞こえる蒼佑の声は震えていて、私の首筋に涙が零れた。
「・・・・・うそ・・・・違う・・・・・裕君は・・・・・裕君は・・・・」
みるみるうちに視界がぼやけていく。脱力した私を蒼佑が向きを変えた。私の肩をしっかりと掴んでいる目の前の蒼佑は泣いていた。
「どうして・・・・、お前とこんな再会なんて・・・・したくなかったのに・・・・だけど・・・・せめて、俺がお前を・・・・」
そう言って、蒼佑は手錠を取り出し私の手首にそれをかけた。
「22時37分 米倉美月 大崎裕希殺害の容疑で逮捕する」
震えた声でそう言った蒼佑の声と、手首にかかったひんやりと冷たい感触を最後に私は意識を失った。
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