7人が本棚に入れています
本棚に追加
窓際に取り付けた風鈴は完全に任務を放棄し、だらしなくぶら下がっている。網戸を通じて入ってくるのは涼やかな風ではなく蝉の合唱。
真夏の午後二時。只今の気温35度。
シェアハウスの共用部。付けっ放しのテレビから、ワイドショーのコメンテーターが喋る声が聞こえる。部屋にいるのは僕ともう一人。誰もテレビを見ていない。
先ほどから僕は彼女の視界に入っては消え、入っては消えを繰り返している。ソファに座り静かに雑誌をめくる彼女も、いい加減イライラしてきたらしい。非難の混じった声で問われた。
「孝太郎、さっきからお主は何をしている?」
床の上をゴロゴロと転がっていた僕はピタリと動きを止めた。
「なんかもう、この部屋暑すぎてさあ。フローリングってちょっとひんやりしてるでしょ。」
だらしなく寝そべったまま答えた。
最初のコメントを投稿しよう!