青い航路

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 なんだっていいから書いちゃえばいい。  そうやって書き出した小説がいくつもある。数えればキリがないから数えたくない。面倒だ。面倒事は何よりも嫌いでいつだって楽な方へ楽な方へと流されている。これが海だったら沖に行けば行くほど危険なはずなのに、いったん(たい)()の波にさらわれてしまえば浮力に身を任せてどこまでもたゆたっていたくなる。怠惰の行き着く先が(ごく)(らく)浄土(じょうど)であればいいのにと思う。  なんだっていいからと書き始めた小説はもちろん取り留めがなくて面白くない。少なくとも自分では分かっている。それなのに周りのフォロワーは()()(れい)()を並べて()めちぎってくれる。嬉しくないとは言わない。彼らがお()()を述べているとも嘘をついているとも思っていない。ただ自分の良心と折り合いがつかないという話だ。更新(ひん)()を保つためにとりあえずアップした小説が一字一句目を通されてここがいいあそこがいいとコメントを浴びるのを見ると、崩していた足を正したくなる。  小説は足だ。北の大地を食べ歩いて(とう)()し、南の島で白い()に風を呼ぶのもいいし、近所をうろつくことも、(うな)(ばら)を航海するのも、大空をビュンビュン飛び回るのも思いのままだ。ひとたびペンを握れば、誰だってどこへだって行くことができる。「あ」の()()交差点をわたって、「し」のカーブを曲がって体は運ばれていく。
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