怖いお寺、の話

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怖いお寺、の話

昔仕事させて貰ったお寺さん。 古いだけでなく、私は本堂にはいったときから震えが止まらなかった。 いつもこういう神社仏閣に入ると本尊に手を合わせるのだけれと、それさえおちおちできないくらい。 怖い。それは妙に生々しい怖さだ。 なんだ?なんだ?と首を捻った。 ここは魂を慰める場、神仏の加護厚い場。 毎日住職さんにお経で清められている場なはず。 なぜこんなに怖い? 仕事のため本堂に日の光を入れて解った。 ここは私達みたいな者でも来ないと、仏事がないと光も人も入らない場だ! 普段締め切りだ。 ほら、本尊の裏に、位牌や卒塔婆が乱雑に積み重なってる。正面からみえない場所に。あの箱はお骨が入る箱だ。あれはお骨が入っている。 兎に角怖かった。仕事にならないくらい、体が震えて、その場にいるのが怖かった。 人だけが在るのでない。ここの場を司るモノも人に怒っている。 その怒りは生臭く、とても淀んで感じられた。まだお経で清められていない火葬場のような感じだ。 私は常々、神社仏閣には神様と人とを橋渡ししてくれる「モノ」の存在を感じていた。モノは神様ほど格が高くないので、好き嫌いがあり、慈悲でもって人の理も眺められないみたいだ。 お寺の関係者さんは平気な様子で歩き回っている。あまつさえ、仏様の掃除も、私達素人にさせたい意向らしい。 呆気に取られて関係者さんを見つめた。 あとで、この仕事をとってきた夫に、あのお寺さんは二度と行かない!と訴えた。 仕事をしていての私の様子になにか悟ったんだろう、頑固な夫も折れた。 あんな怖い想いをしたのは、あそこだけだった。 他のお寺さんでは、墓地で仕事をしようともあんな怖い目には遇わなかった。
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