序章 立ち上がる六絃琴師

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「悪い、待たせた。友貴也。それに、平井、高瀬、高橋。準備は大丈夫か?」 俺はそう言いながら、舞台袖においてある自分のギターをギタースタンドから持ち上げて慣れた手つきでチューニングを始めた。E,B,G,D,A,E。よし、OK。 「渋澤先輩チューニング早くないですか?」 「まぁ、4年やってるからな。」 「僕も中学からやってますけどそんなに早くできませんって。」 「そこは、吹奏楽部で頑張ったやつと帰宅部でギターしかしてこなかったやつの差かな?」 そう言って高橋にちょっとだけ意地悪に答えた。まさか、ボーカルの大野部長が「自分の認めた後輩たちと文化祭のトリを務めるバンドを組みたい」っていって俺と同期のベーシスト平井とドラマーの高瀬。それにリズムギターに俺の1個下の高橋を呼び、最後にリードギターで俺を呼んだのにまさか本番2週間前に全治3ヶ月の交通事故に遭うとはなぁ…。おまけに助っ人は誰も知らないような1年生。軽音楽部の中は誰もがトリを務めるのを反対した。それを俺たちは先輩方に頼み込んで無理矢理トリのままにしてもらった。ふと目を閉じて、ここ2週間のドタバタを振り返った。 「本番前に、お前らに話しておきたいことがある。」 振り返り終わって自然に目が開いた。そして、俺がそう口を開くと本番前のシビアな4人の目線は一気に俺に向いた。 「なんだよ。昂樹。改まって。」 高瀬がそう言ってきた。そして、ふっと一息吐くと俺はこう言った。 「軽音楽部には俺たちがトリを務めるのに異議を唱えた先輩方ばっかりだ。でも、俺たちはこのボーカルの凄さを知っている。だから、自信を持って本番に臨むぞ。」 すると、安心しきった顔で平井がこう返す。 「言われなくても分かってるよ。昂樹。ベーシストとして、これだけのボーカルがいるバンドを低音で支えられることを誇りに思ってるよ。」 「ずるいぞ。昂樹に平井。俺だって自分たちに自信を持てずにステージに立つほど馬鹿じゃねぇっての。何それをいいこと言ってる風にするんだよっ。お前ら2人だけ株を上げようったってそうは行かねーからなっ!」 高瀬も、自分の言葉で続けてくれた。 「僕も、このメンバーで組めて楽しいです。ただ、緊張がやっぱり…」 「そうか。高橋。なら、何かミスがあっても全部ボーカルの俺のせいにしろ。それくらい気楽に行け。」 「う、うん。気楽にいくよ!」 一年生の2人も随分しっかりしてるよな。そう思いながら足元のマルチエフェクターを見て、もう一度4人の頼れるメンバーを見る。 「頼むぜ。お前ら。」 そういった直後、文化祭スタッフの 「The,PM10:30さん本番です!お願いします!」 そう言って幕が一旦下りて、転換の時間になった。自分に足元にそっとマルチエフェクターを置く。今回はGT-1000という新作のマルチエフェクターの初陣だ。今日もよろしく頼むぜ。マルチエフェクターにそう語りかけると、文化祭のスタッフに頼んでおいたレースのカーテンが幕の内側にサッと閉められた。全員が準備完了の合図を俺に送ったのを確認して、俺が文化祭のスタッフに幕を上げるよう合図を送った。ブザーが鳴り、今年の文化祭最後の幕が上がった。友貴也がブレスをして 「一本打って!」 それを合図に観客の皆が手拍子をしたのが聞こえた。 「ただいまより、二本打って!」 今度は2回しっかりと手拍子が聞き取ることが出来た。よし、さっきの手拍子は偶然じゃない。 「The,PM10:30の、三本打って!」 3回手拍子が聞こえる。このときには確信に変わっていた。 「文化祭最後のステージ、最高の思い出にしたい奴は、4本打って!」 4回の手拍子が体育館に鳴り響く。分かっていた。 「The,PM10:30、これより始めさせていただきます。どうぞよろしく!!」 友貴也がそう言うとレールカーテンが一気に開き、俺たちは初めてしっかりと観客の皆を見られた。男子であろうと女子であろうと、この体育館が割れんばかりの歓声を上げて俺たちを迎え入れてくれる。よっしゃ、この歓声で気合と力の出ないバンドマンが居る訳ないだろ! 俺のギターの演奏はいつにも増して気合が入っていた。
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