1章 常闇への光 第1話 新しい季節と変わらない日常

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「さっきの、私を逃がしてくれたの?」 浮田が教室につくなり、俺にそう話しかけてきた。全く、この勘違い女の勘違いもほどほどにしてほしいもんだ。 「勘違いするな。悪いが、そこまで気づかいが出来る訳じゃない。俺を守るためにお前を盾にしただけだ。」 「まぁ、アイツには触れない方が正解だよ。アイツは宇都宮って言って内部進学生のなかで一番喧嘩っ早くて喧嘩も強い事で有名なんだ。アイツの近辺だけが耀木学園唯一のヤンキーって考えてくれ。」 そういって真面目そうな男子が1名浮田の前の席で、椅子からのめりこむ形で話しかけてきた。 「そうなのか。気を付けるよ。」 「そうね!ことみちゃんも、大嶋君も美形だから絡まれやすいかもね!」 「ヒィッ!!」 後ろから聞こえた声は間違いなく女子特有の声…女の子怖い…女の子怖い… 「おい、柿谷、いきなり話しかけるなって…。驚いてるだろ?」 「ゴメンゴメーン。純平(じゅんぺい)。でも、なんか震えてない?」 怖い…女の子はいきなり何言うか分からないからたまったもんじゃないよ… 「ごめんね!純平君。柿谷(かきたに)さん。」 浮田がフォローに回った。 「真菜(まな)でいいよ-。」 「ゆーくんは、女の子と話すのがものすごく苦手っていうか…その、少し女の子アレルギーなの。」 ありがとう…浮田…でも、まだ怖いわ… 「でも、浮田さんとはフツーに話せるくない?」 「あぁー、それはもう私たちが腐れ縁過ぎて私に女子っていう感覚がなくなったんだと思う。悲しいけどね!」 グサッ…ごめんよ…浮田…。 「うわっ…そういうことなんだ…なんかごめんね?」 やめてくれぇぇぇ!俺を、俺をそんな目で見るなぁ! 「ってゆーくん大丈夫!?顔が蒼白いよ!?」 「ホントだ!大丈夫か!?大嶋君!」 「うわっ!ヤバッ!大丈夫!?」 三人が察して俺の顔を見てしまった…。 「だ、大丈夫だよ…こ、これから慣れていかないと…」 そうだ…なんとか…慣れていかないと…。 「おい、皆静かに!」 そういうやり取りをしていると担任の先生が教室に入ってきた。見た目的には、メガネを掛けている男性。年齢は40代後半から50代前半といったところか。そしてなにより 「はい。みんな注目。今日から、皆の担任を1年間させていただきます。宮出(みやで) 尚好(なおよし)です。担当教科は国語、特に古文に関してはそれなりに教養のある方なのでどんどん質問してください。一応、軽音楽部の顧問で、ギターとベースとドラムが出来ますので、また機会があったら披露しましょう。まぁ、私の自己紹介はこのくらいにして出席番号1番から自己紹介をしていって最後に先生や生徒の皆に全体で質問タイムということにします。」 この響きのある中低音域の声に優しい顔。おそらく、キレるとき以外は優しい先生なのだろう。そう思っているうちに 「出席番号1番。安藤 誉です。陸上部に入ろうと思っています!」 出席番号1番の安藤君からどんどん自己紹介が始まって 「出席番号3番。浮田 ことみです。『浮田』とか、『ことみ』とか好きに呼んでください!小学校の時からバイオリンをしていて、中学で吹奏楽部に入ったので高校でも吹奏楽部に入ろうと思っています!よろしくお願いします!」 浮田の自己紹介が終わった。はぁー。俺の番か。適当にやって終わらせよう。そう思いながら浮田とすれ違って教壇に上る。 「出席番号4番。大嶋 友貴也です。女の子と話すのが苦手なので話しかけるときは他の男子かさっきの浮田を挟んで話しかけてください。中学までは音楽をしていたんですが、高校では特に部活に入る予定がないので何かいい部活があったら教えてください。よろしくお願いします。」 とりあえず、自分の特徴を言っておけばいいだろ。こういうのって。そう思いながらテキトーに他の人の自己紹介を聞き流した。そして、質問タイム。 「はい、火野さん。」 そういって、女子が1名指名されて、立ち上がった。 「はい。大嶋君に質問です。」 「ヒッ!!」 はっ!?おっ、俺っ!? 「まぁまぁ、大嶋君。落ち着いて話を聞こう。」 思わず反応してしまって先生からとがめられた。落ち着いて落ち着いて… 「大嶋君のその髪色って染めてるんですか?」 あっ、あぁー、えっ、えーっとこの色の抜けた白髪(しらが)のことか? 「えっ…あっ…その…実は……昔…ストレスで…」 何とか言葉を絞って答えを伝えた。 「なるほど、昔のストレスで髪色が全部抜け落ちた白髪なのか。それはそれは、私たちの想像のはるか上をいく苦労なんだろう…。高校では彼が苦しむことの無いように私たちでサポートできるように、皆。頑張っていこう。」 先生の一言一言が力強かった。 「じゃあ、次の質問にいこう。はい、高橋君。」 「はい!先生に質問です!先生って独身ですか!」 出た。もはや定番と化した質問だな。全く、どうしてこういう質問が多くなるのかな。 「はっはっはっ。高橋君には私がいくつに見えているのかな。私は今52歳だ。それで独身だとさすがに堪えるよ。今は妻と大学4年生の長男と大学1年生の長女と高校1年生の次女と私の5人家族だけど、一緒に暮らしてるのは私と妻だけでね。私も今年から改めて妻と2人暮らしになったんだ。君たちと同じ、新しい生活を始めたもの同士一緒に頑張っていこう。」 「「おぉ~。」」 流石にこの返答にはクラスの全員の納得というか、感心というか、そういう類の声が漏れた。 そうして、質問タイムの終わりを2限終了のチャイムが教えてくれた。 「じゃあ、質問タイムもこれで終わり。明日は、入学いきなりで悪いが、テストがあるから皆も最後にもうひと踏ん張り勉強してくるように。では、起立。気を付け。礼。皆、気をつけて帰るように。」 この先生はかなり当たりの部類を引いたんじゃないか?
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