<第四話・規則>

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 まあ、そういう話ができる友達がいるでもないし、アンディのサイコパスな気質は同僚達にも知られてしまっているところである。実のところ、気軽に話す相手はおろか、友達らしい友達の一人もいなかったわけだが。  それを、淋しいと思ったことはない。なんといってもアンディは他人というものに興味がなかった。世界の全てが自分中心にだけ回っているということを、幼い頃から正しく理解していたからである。かといって、己が可愛いかというとそれも微妙なところ。別に、いつか恨まれて殺されるならそれもそれ、と思っているのは間違いないことだった。その日まで楽しく過ごせればそれで十分だ、とも。  それをイカレてるというならそれでもいい。自分が好きなのは、ただ美しい男や女が苦悩にまみれてのたうち回る様、絶望にはいつくばる様を傍で眺める瞬間――それだけなのだから。 ――まあ、嘘は言ってない。予想外のことばっかりするヤツなのは間違いないですしー?  すると意外にも、フロウメリーは弾けるように笑い声をあげてみせたのだった。 「存じ上げておりますわ、アンディ。だってわたくし、次の担当者がどのような方なのか、先んじてミカゲ教授から伺っておりましたもの。聞きましたわよ、貴方とんでもないことをなさったのですって?自分の体液を無許可で他の人に摂取させて子供を作らせようだなんて……本当にイカレてらっしゃいますのね」 「え、褒めてる?褒めてくれちゃってる?」 「ある意味では褒めてますわよ、ここまでトチ狂ってる方は今まで見たことがありませんもの」  微妙な言い回しだが、アンディは素直にそれを褒め言葉と解釈した。なんだか急に嬉しくなり、そのまま話題を続けたくなってくる。 「なあなあ、どうせ俺も当面暇、あんたもその絵の中にいるだけってなら退屈なんだろ?あんた地球とかいう星の住人だっていう話じゃないか。俺に教えてくれよ、地球のこともいろいろとさ。代わりに俺は、俺が知ってる範囲でガイアの惑星について教えてやるし!」  地球という惑星について、自分が知っていることは僅かな知識ばかりである。そして目の前の少女も、前任者とやらとミカゲ教授から聞かされた内容くらいしかガイアについて知識はないはずなのだ。  時間はどうせ、有り余るほどある。この会話もどこかで記録されているかもしれないが、教授からは“彼女の教育上よろしくない内容など話すな”なんてセーブはかけられていない。彼女の機嫌を損ねなければ、どんな話題でも構わないはずである。ならばこの仕事を任された自分が、己の裁量で話題を選んでもなんら問題はないはずだろう。 「いいですわよ、確かに、わたくしもここに座っているだけなので本当に退屈ではありますわね」  くすくすと、涼やかで麗しい声で少女は笑う。 「地球とガイアは、たくさん違うところがあるんだと思いますわ。それを比べてみるのも、きっと楽しいことなのでしょうね」
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