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「本来ならこんな寛大すぎる処置などありえんのだがな。お前のようなクズを必要としてくれた、ミカゲ教授に感謝するといい」
「へい、ありがとうございやすー」
「おい」
「いやいや構わんよレイメイ君。なるほど、アンディ君が非常に面白い人材であるのは間違いないようだ」
アンディの軽い態度に老人は腹を立てる様子もなく、嬉しそうにポンポンとアンディの肩を叩いた。
レイメイの評価は散々だが、まあ必要とされるというのなら悪い気はしない。この様子だと、減俸なども特にはないのだろう。なら有り難く頂戴しておくべきだ。どんな仕事かわからない。というのが少々恐ろしいところではあるが――研究職であるというのなら、とんでもない体力仕事だとかブラック労働だということもないだろう、多分。
「まず、この研究室について詳しく説明させてもらおうか。ちょいとこちらの方に来るといい。あ、ついでにレイメイ教授も見物していっておくれ」
猫背の老人はそう告げると、見た目より軽やかな足取りで部屋の奥へと歩き出した。こうしている間にも、あちこちで機械が動く音や報告する声が響いている。若い者も年配者も多い。地下にまさか、こんな大規模なラボが存在していただなんて。
「我々が調査、研究しているのは……魔法でも科学でも説明できない不思議な現象や物質だ。ガイアで発見されたそういう未知なる存在は全てこの研究室に報告され、集められ、収容されて調べられることになる。未知を、既知なものへと変え、いずれそれを人々の生活に役立てるためにな」
彼が立ち止まったのは、大きな大きなガラスケースに入れられた――綺麗な四角い形の石である。大きさは、サッカーボール程度だろうか。
「未確認物体№35……沈没する黒石。これはな、重力に逆らって空中に浮いている不思議な石なのだ」
よく見るといい、と彼はその石を指差した。
「浮いているが、1秒ごとに1ミリ程度ずつゆっくりと沈み続けている。地面に落下しても、必ずめりこみながらさらに下へ下へと沈下していってしまうのだ。どんな固い物体であろうと、この石の沈下を遮ることができない。放置すればガイアの惑星のマグマも突き破ってしまうであろうことが想定されるのだ」
「え!?ま、まさかあ、そんな……」
「と、思うだろうがこれは既に調査された事実。重力場に異常はなく、魔力を纏っている気配もない。そして、魔法ではこの石を一切動かすことも破壊することもできない。防ぐ方法はただ一つ、一定期間ごとに人が手で持って再び高い場所へ移動させることのみ……」
そんな馬鹿な、と思いつつ意識を集中させるアンディ。
だが確かに、石からは一切の魔力も感じないのは事実だった。そしてよくよく見ると、手を触れてもいないのに石がどんどん降下しているという事実も。
「面白い研究だろう?」
ふふ、と。ここに来て初めて笑顔を見せるレイメイ。
「こういうものが、この研究室にはいくつもあるというわけだ。そして、お前にしか研究できないと……ミカゲ教授が見込んだ物体も、な」
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