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<第三話・絵画>
仕事があるからこれで、とそそくさとレイメイは帰ってしまった。美女がいなくなってしまってちょっとションボリなアンディだが仕方ない。何も今生の別れでもないのだから、仕事をしているうちにまた会えることもあるだろう、多分。
ミカゲ教授に連れられて入ったのは、『No.3582』とプレートに書かれた部屋だった。一体彼らの研究する未確認生物?未確認物体?とやらは何種類存在しているのだろう。そりゃ広い部屋も必要なはずである。
「何があるんですか、この部屋。ナンバー一個だけで一部屋使うとはなかなかのVIP待遇」
「まあな。この部屋の研究対象はちょいと特別なのだ。ゆえに、スペースに限りがあるのを承知でこの部屋を贅沢に使っておる」
「ふーん」
カードキー、指紋認証、それから物理的な南京錠。三つも一部屋に鍵を使うとは、なんとまあ厳重な保管なのか。まさか猛獣がいるわけではあるまいな、と今更びびり始めるアンディである。
一応これでも実技試験は突破して軍に入ってきている身だ。全く護身術や魔法が使えないわけではないが――だからといって、本職は研究員なわけで。ガチガチで戦闘訓練などやってないわけで。
――ああーでもありうるー。レイメイ博士結構鬼だし俺のこと嫌ってるからありえるー。俺実験動物の餌にされちゃうとかありえるわー……。
流石に痛い死に方はやだなぁ、と。どこか他人事のように思うアンディの目の前で、がちゃり、と全ての鍵は解除されていった。唾をごくにと飲み込む中、老人は躊躇う様子もなくドアを開いていく。
「アンディ、お前さんの仕事は……コレの世話をすることだ」
「…………は?」
そして、拍子抜けすることになる。
深緑に塗られた壁と床、天井。広い部屋の中心に置いてあるのは古ぼけた木のテーブル、椅子、ベッドのみ。
そして椅子に座ると真正面に向かい合う位置の壁にかけられているのは――一枚の絵だ。
「お世話って……なんの?」
世話をするような生き物など見当たらない。思わずきょろきょろと部屋を見回すアンディに、ミカゲは告げる。
「これだ」
「う?」
「これ、この絵の世話が、お前さんの仕事だと言っている」
――え?絵ーっ!?
ポカン、としてアンディはその絵を見た。一見するとそれは、どこかレトロな雰囲気を漂わせる一枚の油絵のように見える。
非常に大きなカンバスだ。ざっくりとだが、アンディの背丈ほどの高さがあるように思われる。描かれているのは一人のピンクの艶やかなドレス姿の女性。ふわふわしたボフカットの金髪を揺らし、薔薇色の唇で穏やかに微笑んでいる。目は宝石のように、真っ青だ。
ただし、ガイア人ではないことがすぐにはわかった。彼女は自分達ガイアの民のように耳が尖っていないのだ。そして自分達よりも肌の色が濃い。真っ白ではない。そもそも、金髪というのがまずガイア人にはない髪色だった。まあたまに髪を染めて大騒ぎするガイア人も現れなくはないのだけども。
年は大体、十五歳かそこら、だろうか。愛らしいが、見たこともない容姿の女性である。
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