夏合宿の夜

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 道斗たちは何台かの車に分かれて乗り込み、宿へ向かった。そこは、この遠征にも同行している源太郎の父と親交のある人の民宿だったということを道斗は後になって知った。 「この辺は蛍が見れるところなんだって」 誰かが車の中でそう発した。端の席でぐったりとしていた道斗は、蛍が出るところは自然がたくさんあって水がきれいなところだと聞いたことがあるのを思い出した。  間もなく民宿に到着すると、まずは子どもたちが先に風呂に入った。といっても、大浴場ではなく、小さな浴槽に3人ずつ時間を区切って入った。道斗は源太郎と信次と一緒になった。源太郎が道斗の後に入ると、湯があふれた。道斗は源太郎にダイエットをすすめようとしたが、源太郎が恥ずかしそうな表情をしていたのでやめた。 「今日のごはんはなにかな?」と信次が話題を切り出せば、源太郎は昨日と同じメニューらしいぜ、とすぐに答えた。 「なんで知ってるんだよ」 「だって父さんが言ってたし」 「おまえの父さんが作ってるの?」道斗はそうではないと思いながらも、会話に加わった。 「いや、そうじゃないけど、毎年父さんここに来てるし」源太郎の父は、この野球チームのコーチだ。三人は風呂を出ると、昨日と同じメニューが並ぶテーブルに着いて、短時間で平らげた。  そのあと、近くの原っぱにいって花火をやることになっていた。道斗はキャンプファイヤーじゃなくてよかったと思った。いつかにやったあれは、とても退屈で蚊に刺されるだけだと経験していた。しかし、そこへの道中で雨が降ってくると、監督の中止にしましょう、という鶴の一声によって引き返すことになった。宿に戻ると、グループに分かれて主にトランプで遊んだ。そして消灯時間になると、皆が布団に入った。道斗は窓際の端の布団を選んだ。横には源太郎がきた。その横には信次がいる。雨は止んでいるようだった。
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