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何とか会場から離れて橋を渡る僕。
折角頑張った髪の毛も大分乱れて、浴衣も少し崩してしまった。
…でも。
これで良かったんだ。
完全な女性には、なれない。
僕は、心も身体も「男」なんだよ。
なのに………。
いつまで………。
いつまで………。
皆を騙すような事していなきゃならないの?
もうメイクも落ちてしまえばいい。
涙が流れてしまうのは、罪悪感なのかな?
橋の下を覗いた。
漂うだけの川。
静かに音を鳴らしてる。
暗くて吸い込まれそうな水の音。
……このまま落ちてしまえば……。
海音「…ねぇ大丈夫?」
空 「う"がぁぁぁ!!!!」
後ろから突然声をかけられて凄い声で吠えてしまった僕。
気配感じなかった!
僕、自分の世界に入ってたから尚更ビックリしたー!!
海音「………何か…男の子っぽい声だね……はは…。」
し、しまったーーー!!!
いつもは、若干声変えてるけど、自分の世界に入ってたからモロモロ自声になってた~!!
空 「…ご、ごごごごめんなさい…!…びっくりしちゃって……!」
誤魔化そうとすればするほど、僕って墓穴掘るタイプなんだよね……。
海音「…ごめんね。驚かせるつもりじゃなかったんだけど…。」
…何か…この人の笑顔……凄く優しくて癒される……。
初対面の筈なのに………。
なんで?
海音「浴衣着てるから、花火大会に来てたの?」
空 「…あ…はい……でも……。」
言いにくそうにしてる僕に、その人は言う。
海音「…折角可愛くしてるんだから、自信持ちなよ。君は、可愛いよ…凄く……。」
この人の瞳の色は、蒼に似てる。
蒼も良く僕に同じ事を言うし。
でも、違う。
この人は、蒼とは全く違う。
………笑顔が違う。
海音「…浴衣、少しはだけちゃったね…。…少しだけ、ここを…こうして…」
初めて会った通りすがりの人に軽く浴衣直してもらうなんて……。
しかも、男の人が「男」の僕に……。
罪悪感がまたよみがえるー。
でも、もう会うことなんて無いから、このまま女の子を貫き通そう。
海音「…良し!一段と可愛さ増したよ。」
空 「…あ、ありがとうございます…!」
恥ずかしさのあまり、顔を見る事が怖い……!
………と、そこに。
亮一「空!何勝手に帰ろうと…!」
空 「…亮一…くん…。」
わざわざ追いかけて来てくれたの?
…戻らないと蒼に色々言われるかもしれない…。
啓一くんも凄く楽しみにしてたみたいだし……。
亮一くんが凄く怖い目付きで近付いて来た。
怒るよね。
怒られる事を僕は、してしまったんだから。
殴りたければ好きなだけ殴って良いよ。
亮一くんが目の前に来た。
目を瞑れば……堪えられる!
亮一「…てめぇ、何してんの?」
空 「…ご…ごめん…なさい……。」
亮一「…空じゃねぇよ!」
え?
僕じゃない?
じゃあ…誰……?
海音「…何か勘違いしてない?僕は、ただ…寂しそうに橋の下を覗いていたから、自殺するんじゃないかと思って声かけただけだよ。」
………自殺……。
亮一「はぁ!?何?空、自殺図ってたのか?」
空 「…ち、違う……そこまでは…そこまで…考えたこと……。」
……なんだろう?
何かずっと前にも、同じような事……。
自殺って言葉が……。
何かを思い出させるのに、変な拒否反応が出て思い出せない。
海音「…じゃあ、僕の勘違いみたいだね。ごめんね。でも良かったね。…ちゃんと友達が迎えに来てくれたから仲直りして、花火楽しんでね。じゃあ。」
亮一「…悪いんだけど…名前…教えてもらえますか?」
亮一くんが僕を包むように軽く優しく抱きよせる。
海音「…名乗る名前なんて無いよ。…大切にしてね。〈友達〉を…。」
その人は、僕らに名前を告げず行ってしまった。
亮一「…ったく。…戻るぞ。蒼と啓一にどやされるけど…。」
空 「…それは、別に良いですが……。」
亮一「…後、何かあんの?」
空 「…いつまで…抱きしめてんの!?離してよ!バカ!!」
亮一くんに蹴りを入れて無理矢理離れた僕。
どさくさに紛れて何で抱きしめて来たのは、解らないけど……。
花火は、とても綺麗だった。
完。
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