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1.何気ない日常
『お前ってさぁ、ほんとデブだよな〜』
『つーかさ、"美恵"って名前似合わなく
ね!?美しいとか勿体なさすぎだろ!
…ってことで、今日からお前は"デブ
恵"な』
───ピピッ、ピピッ、ピピッ·····
───ピピッ、ピピッ、ピピッ·····ピッ
美「………ん"〜……うるさい………………グゥ…」
───·····ガチャッ!バシッ!!
美「い"っ!?」
母「こら美恵っ!いい加減起きなさい!!」
───バタンッ!バタバタバタ·····
美「……はぁ〜…もう朝かぁ〜……」
美「行ってきまーす」
母「はーい、行ってらっしゃーい」
──·····バタンッ
美「……はぁ、今日も憎いほどいい天気」
いつも通り歩く通学路。
自転車や走る子供たちと行き交う光景。
目を見張る程の青い空、と噴き出す汗。
今日は、8月1日。
───ミ"ーンミンミンミン·····ジジジッ
美「…何で蝉の声聞いたら余計暑く感じるん
だろう…ほんとやめて……」
私は夏がきらいだ、なぜだか分かる?
………それは、
「いや〜、いつ触っても気持ちの良い二の
腕ですなぁ〜」
美「あはは、瑠衣はいつもそれだねぇ」
瑠「だって、こーんなに柔らかくて触り心地
いいんだよ?触るなって言う方が無理無
理!」
私が根っからのデブだからだ。
幼少期はまだスリムで可愛い服とかも沢山着たりしていた。
だが、中学3年生に上がる頃……
『お前ってさぁ、ほんとデブだよなぁ〜』
と心へし折られる言葉を浴びせられた。
まぁ確かに、自分でも何となくそんな気はしていた。
だけど、わざわざ本人に言うことなくない!?
そのまま見て見ぬふりをしてくれればよかったものを、"あの男"が……!
(……それからというもの、ダイエットをしようと何度も決意して挑戦してみたけど…全て挫折してしまって今ではこの有様…)
お腹は出てるし、脚は大根みたいだし、オマケに二の腕は友達に遊ばれる始末……。
(…いいんだ、私はもう開き直ってこの人生を謳歌しようと決めたんだ。
あの男も中学卒業と同時に転校していったし、もう会うことは無い)
気にしたら、負けなんだ。
瑠「……美恵?美恵ってばー!」
美「……え?あ…ごめん、ぼーっとしてた」
瑠「もー、大丈夫?暑さでやられてるんじゃ
ないの?」
美「大丈夫だよ、ありがと」
瑠「それよりそれより!聞いた!?」
美「何を?」
瑠「今日、このクラスに転校生が来るんだっ
て!」
美「え、転校生?」
(…こんな時期に転校生なんて…)
──キーンコーンカーンコーン·····
瑠「じゃ、またあとでね!」
──同じクラスの猪又 瑠衣(イノマタ ルイ)。
すごく明るくて、The高校生って感じの子。
私とは真逆でスラっとした体型で背も高くて、顔も可愛い。
瑠衣に想いを寄せてる男子もチラホラ居るとか噂を聞いたこともある。
そんな瑠衣は高校の入学式の時、
瑠『あれ?もしかして同じクラス?』
美『え?…あ、あぁ、うん。そうみたい』
瑠『ほんと!?よかった〜!知り合いも居な
いし、誰も来てなかったから不安だった
の!
……ねぇ、名前はなんて言うの?』
美『え、と……安藤 美恵…だけど…』
瑠『美恵ね!私は猪又 瑠衣!瑠衣って呼ん
で!友達になろうよ!』
美『……えっ?』
あの時、瑠衣が私と友達になろうって言ってくれてすごく嬉しかった。
今では私の中では瑠衣を親友と思っている。
(……ま、強引なとこがたまに傷だけど)
───·····ガラララッ
「おー、おはよう。ちゃんと席に着けー」
私のクラスの担任、岩本 智也(イワモト トモヤ)先生。
年齢は28歳で、背も高くて顔もかっこいいと女子に人気。
私達には"トモちゃん"って呼ばれてる。
女子「ねー、トモちゃん!今日転校生くるん
でしょ!?」
女子「男子!?それとも女子!?」
岩「あー、こら騒ぐなっ!
あと、トモちゃんじゃなくて"岩本先
生"だ ろ!…ったく。
……ほら、入ってきなさい」
トモちゃんは溜め息を1つ落とすと、教室のドアをチラリと見た。
ガラッと開くと同時にクラスの女子達が釘付けになった。
……私を除いて。
岩「…今日からこのクラスに通うことになっ
た、"鈴谷 昴(スズタニ スバル)"君だ」
鈴「鈴谷 昴です、県外から引っ越してきま
した。これからよろしくお願いします」
女子「え、ちょっと…かっこ良くない?」
女子「めっちゃイケメンなんだけど!」
男子「背、高ぇ〜……」
───ザワザワザワ·····
岩「はい、色々聞きたいことはあると思う
が、休み時間まで我慢するように。
……じゃあ、鈴谷の席は………」
(……………嘘、だよね………?)
鈴谷 昴。私が最も聞きたくない名前。
デリカシーの欠片もなく、私の心を切り刻んだ張本人。
まさか、この街に戻ってくるなんて……。
(……でもまだ私が居ることは気づいてない。
中学の時ちょっと同じクラスだっただけだから私のことなんて覚えてないはず…。
もう絶対に関わらないと思ってたのにっ…!)
有り得ない偶然。
こんなの夢であって欲しい。
───·····キーンコーンカーンコーン·····
岩「……じゃあ、鈴谷と仲良くするよう
に!号令!」
女子「ねぇねぇ、彼女とかいるの?」
女子「スポーツとか何かやってた?」
女子「めっちゃイケメンだよねー!」
鈴谷 昴の席は幸いにも私の左端後ろと逆の、右端後ろだった。
これなら必要最低限の関わりだけで済む。
まぁ、必要最低限も関わりたくないけど。
瑠「…美ー恵っ!」
美「わっ!……ちょっと、危ないじゃん」
瑠「えへへ、ごめんごめん!
……ねぇ、あの転校生どう思う?」
美「は?」
チョイチョイっと鈴谷 昴の方を指さす瑠衣。
私はあいつを見たくないのでチラ見。
瑠「ほんと、イケてる男子って感じだよね。
転校初日から女子が群がってるわ〜」
美「…私は、あいつ大っ嫌い」
瑠「え?美恵、あの人知ってるの?」
美「……まぁ、ね」
ふぅ〜ん、と怪しげな視線が送られる。
これは何があったのか気になっている目だ。
でも、言ったところで楽しい話でもないし、正直思い出したくもない。
瑠「……何があったか知らないけど、私は美
恵の味方だからね」
美「……瑠衣……」
瑠「そ、れ、に!
美恵の、この二の腕のファン第1号なん
だから守るのは当然でしょっ!」
ニコニコと私の二の腕を揉み出す今の瑠衣は、傍から見ればただの変態。
でも、いざと言う時頼りになるのも瑠衣だ。
美「もう……ありがとね」
瑠「えへへ、どういたしまして!」
この時は気づいていなかった。
"アイツ"が、私を見ていたなんて。
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