*はじまり

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遠くから、潮騒(しおさい)が聞こえてくる。 息苦しいほどに脈打つ鼓動は、追っ手から逃れたい気持ちによるものか。 それとも、目の前の男を選ぶことへの惑いか。 「どうする?」 選択を迫られ、瞳子(とうこ)は右手を差し出した。 「あんたを、選ぶわ」 月が、雲間からのぞく。 松林に吹いた風が枝葉を揺らし、さざめいた。 男の口元に笑みが浮かび、何事かを述べたが、それは瞳子に正確には伝わらなかった。 代わりに彼女の手のひらには、わずかな痛みと共に、『彼』の“花嫁”となる“(あかし)”が刻まれた──。
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