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「あの男が私に付けたのは、この首の噛み痕! それだけよ!
あんな卑怯な男に、ヤられてたまるもんかっ」
あっけにとられた表情をしたのは一瞬で、イチと呼ばれた黒髪の男が大きな溜息をついた。
「それを【御手付き】と言うのですよ。だいたい、仮にも“花嫁”様ともあろうものが──」
「つまるところ、不本意な契りということだな。白い“神獣”の“花嫁”には、なりたくはないと?」
「当たり前でしょ!
いきなりこんな……ワケ解らない世界に連れて来られて、ハイそうですかって納得できる奴が、いったいどれだけいるっていうのよ!」
「……まぁ、そうだな」
長い名前の赤茶髪の男──虎太郎の顔に、初めて苦い表情が浮かぶ。
それは、瞳子に同情するというよりは、共感に近いもののようだった。
「イチ」
「嫌ですよ、面倒臭い」
「まだ何も言ってないぞ」
「貴方との付き合いは短いようで長いですからね。何をおっしゃりたいのかくらい、想像がつきます」
「……それは、良かった」
ふっ……と、小さく笑って見せ、虎太郎が瞳子に向き直る。
「月島瞳子。……俺の“花嫁”になるか」
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