《六》二つの条件提示

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いまは見えない己の【獣の耳】を示し、イチが判断を仰いでくる。 「聞きますか?」 「いや。瞳子の信用をこれ以上()くしたくない」 盗み聞きをしていたと瞳子に知られれば、彼女は二度と自分を信頼しようとは思わないだろう。 そもそもが、無いに等しい信頼度なのだから。 (よほど嫌な目に遭ったんだろうな) “陽ノ元”へ“召喚”される以外に。 ややしばらくネズミと話込んでいた瞳子が、肩をいからせ、戻ってくる。 まるで、親の(かたき)との一騎討ちにでも挑むかのような態度に、虎太郎は口元を覆い横を向く。 (マズい。また瞳子を怒らせそうだ) 瞳子には悪いが、彼女の不機嫌な表情や仕草がいちいち虎太郎のツボで、正直、可愛いらしさしか感じない。 「……あんたの“花嫁”とやらに、なってあげても、いいわ」 瞳子の物言いに、傍らの従者のこめかみに青筋が立つのが見えたが、虎太郎は気づかぬ素振りで「そうか」とうなずきかけた。が。 「ただし、条件があるわ」 二つ、と、瞳子は細い指を二本立ててみせる。 もう我慢がならないといった様子でイチが口をひらきかけたのを、片手で制した。 「聞こう」 続きをうながせば、瞳子は少しうわずった声で言った。
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