天空碧 — 林家滷肉飯

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 カイくんの葬儀のあと一週間も経たないうちに、お客さんが待っているからと林媽媽は食堂の営業を再開した。  近所の人たちもお店のスタッフも常連さんも、みんな林媽媽の気持ちを察し、応援している。わたしももちろん、そのうちのひとりだ。  飲食店や商店と住宅が混在し、生活感溢れる大安(ダーアン)エリアの一角に、林家滷肉飯はある。  飾り気のない店内は、レトロなテーブル席が並んでいるだけ。よくある下町の食堂といった風情の店構えだが、味はお世辞抜きで格別。なかでも店の看板料理である滷肉飯(ルーローファン)は絶品で、観光ガイドでもたびたび紹介されているほどだ。  当然ながら、ランチタイムは戦争状態。林媽媽やほかのスタッフが走り回っているなか、芙蓉姐も店先で汗を拭いながら、持ち帰り弁当の注文をひっきりなしに受けている。  人手が足りないため、アルバイトを雇うと林媽媽は言ったが、カイくん亡きいま、午後からの時間を持て余しているわたしが、手伝うと申し出た。  客足が落ち着く午後二時過ぎ、やっとスタッフが食事にありつける。わたしは厨房で小鈴特製ランチと揶揄される滷肉飯セットと曉慧の料理が乗ったお盆を受け取り、定位置を目指した。  テーブルでは、読みかけの本を脇に置いた曉慧が、早く来いと手招きしている。曉慧が待つのはもちろん、わたしではなく鶏肉飯(ジーローファン)だ。
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