天空碧 — 林家滷肉飯

4/6
前へ
/187ページ
次へ
「あー、お腹空いた!」 「お待たせしました。鶏肉飯と青菜炒め、魚のつみれスープです。ごゆっくりお召し上がりください」  高級レストランのウエイトレスを真似た口上と一緒に曉慧の前にお盆を置くと、じっとり白い目で睨まれる。 「もう! ふざけないでさっさと座ってよ。冷めちゃうじゃない」  よほどお腹が空いているのか、少々ご機嫌斜めのようだ。 「曉慧。こんな時間なのにまだお昼ご飯食べてなかったの?」  曉慧がビニール袋から取り出した箸の先を、とんっとテーブルに打ちつけた。 「それがさぁ、私、今日は休みなのに会社から呼び出されたのよ。なにか重大なトラブルかと思って慌てて行ったらなんのことはない、同僚の些細なミスでさ。だったらあの子を呼び出せばいいのに、連絡がつかなかったから私って、なによそれって感じ!」  曉慧はカイくんと同じ二十四歳、わたしより二歳年上だ。カイくんとは家が隣同士で、幼稚園から大学までずっと一緒の幼馴染み。よく言えば兄弟、わるく言えば、これ以上ない腐れ縁だと曉慧は笑う。  わたしが曉慧とはじめて会ったのは、カイくんと出会ったあの日だ。カイくんに日本語で「オレの彼女だよ」と紹介された。  だが、林媽媽に言われ確かめたところ、曉慧曰く、幼少期より何度か告白はされたが、付き合った覚えは一度もないのだそう。だからあれは、カイくんの希望的観測、あるいは、日本語を間違って使った、そのいずれかだ。  そうとも知らず、わたしはあっさりその言葉に騙されてしまったのだが。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

154人が本棚に入れています
本棚に追加