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「小鈴、お店はもういいのよね? これ食べ終わったらすぐに行くよ」
「え? 行くってどこへ?」
「はぁ? あんた、なにを言ってるの? 今日は九月十三日、農暦の八月十五日、中秋節、月老の誕生日だよ! お参りに決まってるでしょうが!」
「月老の誕生日って?」
「だ、か、らぁ! 月老の誕生日はすごく御利益の高い日なのよ。お参りに行かないでどうするの?」
月老——月下老人は、紅い糸で良縁を結んでくれる、独身男女にとってもありがたい神様だ。
「曉慧、またお参りするの? ついこの間行ったばかりなのに?」
よく煮込まれた豚肉とご飯をバランスよく箸に乗せひとくち。うん。おいしい。
「いいのよ! 幾度お参りしたって! どうせ相手はひとりなんだし……」
「うん?」
「あ? ああっ、なんでもない。独り言だから気にしないで」
「ふうん?」
ほんのりと染まった頬を隠すようにそっぽを向いて鶏肉飯をかき込んでいるその様子がおかしくて、つい笑ってしまう。
「わ、笑ってんじゃないわよ! あんただって今日はちゃんとお参りするんだからね」
「えぇえ? わたしはいいよべつに……」
「あのさあ……」
曉慧がテーブルに茶碗と箸を置いてため息をつき、真面目な顔でわたしに向き直った。
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