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「阿海のことがあってまだ日が浅いから、そんな気にならないのはわかるわ。私だって辛いのは一緒よ。でもね、小鈴。冷たく聞こえるかも知れないけど、死んだ人はもう戻ってこないのよ」
「曉慧……」
正直なところ、カイくんに恋した気持ちは、原因はなんであれ失恋し、いつの間にか友だちや家族への愛情と同じような気持ちへ変わった、と、思っている。
だからけっして、カイくんを忘れられないから新しい恋ができないのではない。
ただ、カイくんの気持ちを思うと、そんなことを考えるのはまだ早く、自分勝手な気がして、もやもやと割り切れないだけなのだ。
それ以前に、いまは留学中の身。恋愛どころではないのも本当だし。
「まあいいわよ。いますぐどうこうってことじゃなくてもさ。ただ、出会いっていつどこであるかわからないでしょ? だからお願いしておくことが大切なの。それは、わかるよね?」
「うん。まあ……」
「わかったらさっさと食べて行くわよ」
「……わかった」
「あ、そうそう。その折りたたみ傘、縁起悪いから置いて行くのよ!」
愛用のトートバッグから顔を出している折りたたみ傘を、曉慧が箸で指した。
「え? でも、天気予報では雨が……」
「そんなの関係ないわ。あんたのせいで私の縁が散じたら、一生恨むからね」
ギロリと睨まれた。
「…………」
知らなかった。月老のお参りに傘が禁忌とは。それなら、いままでのお参りはやはり——そうだ、傘は持っていなかったことにしよう。
心のなかで許せと、手を合わせた。
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