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「月老? 誰?」
「なによ? 月老知らないの? この界隈じゃ知らない人がいないほどの有名人なのに」
月老といえば、さっきお参りした長い髭のお爺さんではなかったか。あの紳士然としたスタイルは、月老とは似ても似つかないのだが。
「すごい。月老に会えるなんて! なんかもう一生分の運、使い果たしちゃったみたいな気がする」
なんと大げさな。
曉慧の目はキラキラと輝き、頬はピンク色に上気している。
「カッコいい……」
「きゃあ! こっち見た!」
それはそれは見事に色気たっぷりの流し目に射貫かれたふたりの女。
スターか。
サインでももらいに行きそうな勢いだな、と、思うが早いか、ふたりはすでに月老と呼ばれる人に向かって走り出していた。
「月老! ファンなんです! サインもらえますか?」
「握手してください!」
ちゃっかりサインと握手を強請るふたりの燥ぎように呆れる。
ここは他人の振りをしたいところではあるが、あちらもきっと迷惑に違いない。
自分の連れだし、やはり止めに入るべきだろうと一歩踏み出したところで、ふと目を上げた月老の視線が、わたしの視線と交わった。
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