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「あ?」
——足が、動かない?
目だけが、ゆっくりと歩み寄ってくる月老を見据えたまま、まるで金縛りにでも遭ったかのように、突然体の自由が利かなくなった。
なんなのこれ?
焦り混乱しているわたしの目の前で足を止めた月老が、わたしの全身を舐めるように見ている。そして最後に、首元をじっと見つめた。
「天空碧か……。よくもそんなものが手に入ったものだ」
言われている意味はわからないが、その低い声に体中の産毛がぞわぞわと逆立った。
強く見透かすような漆黒の瞳に見つめられ、背筋を冷や汗が伝う。ゴクリと、唾を飲み込んだ。
どれくらいの時間が経っただろう。ふっと月老の口元が緩んだのを機に、体中の緊張が解け、脱力すると。
「林美鈴——おまえの縁は、難儀だな」
「え?」
——なにを言っているのこの人?
「体調が悪かったり、なにか不可解なことがあったりしたら、相談に来なさい」
名刺大の紙を差し出されるのと同時に、わたしの手が勝手にそれを受け取った。
自分の体が自分のものではないみたいなこの感覚。いったいなにが起きているのだ。
「小鈴だけ、ずるーい」
「ねえ、月老になにもらったの?」
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