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食欲を刺激する香ばしい匂い。
宵闇迫る中秋節、街中の空気は焼き肉色に染まる。つまり、煙い。
台湾ではなぜか、中秋節の夜はバーベキューと決まっているらしい。だから今宵は、道端のそこかしこに、バーベキューを楽しむ集団がいる。
当然、わたしも例外ではなく、その集団のひとつに紛れ込んでいるのだ。
曉慧の家の前には、バーベキューコンロはもちろん、屋外用の大きなテーブルとベンチのセットが設えられ、車が追い出されたガレージには、メインの肉以外にも、多種多様の食材とドリンク類の箱が積み上げられている。
焼きの主役は、曉慧のお父さん。普段から料理をしているのか、コンロの前に立つエプロン姿がサマになっている。
アマンダは「バーベキューの血が騒ぐ!」と、張り切って、お父さんの隣で焼き上がった肉にタレをペタペタ。ちょっと塗りすぎじゃないのか。
曉慧のお兄さんは、食器や箸を準備したり、できあがった料理を運んだり。かいがいしさに目を見張ってしまう。
曉慧と彼女のお母さん、兄嫁さんに篠塚さん、そして、芙蓉姐とわたしの六人は、テーブル組。立ち働く彼らを眺めながら、前菜の枝豆とサラダをつまみ、台湾ビールを煽る。いい気なものだ。
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