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「小父さんたちは? 座らなくていいの?」
「いいのよ。ウチのバーベキューは男の仕事。手出し無用なの」
ビールを飲みながら焼きに徹する彼らに目を向けると、曉慧のお兄さんが焼き上がったばかりの骨つき肉に齧りついているところだった。豪快だ。
「なんだかちょっと気が引けるな。僕だって男なのに、ひとり座って飲み食いしてるなんて」
「いいのよ。修哥はお客様なんだから」
「そうよ、修。遠慮しないで。ほら、冷めたらおいしくなくなっちゃうから、熱いうちにどんどん食べて」
曉慧親子の接待攻勢に、篠塚さんはタジタジだ。次々取り皿に盛られる肉や野菜を前に苦笑している。その様子を眺めながら、パイナップルビールをひとくち啜った。
ふと、頬を掠める風に誘われ、空を見上げる。
建物の合間にぽっかり空いた濃い藍色の空間には、星ひとつ見えない。熱と湿気がじっとりと肌に纏わりつく。雨が、降ってきそうだ。
昼間、霞海城隍廟で遭遇したあれは、なんだったのだろう。
突然、金縛りに遭ったように動かなくなった体。
頭の芯に直接響く、あの低い声。
月老と呼ばれるあの人は、間違いなくわたしを『林美鈴』と呼んだ。
なぜわたしの名前を知っていたのか。以前どこかで会ったことがあった?
いやそれは、あり得ない。あんなに印象的な人だ。一度見たら、忘れるはずがない。
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