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「こっちの大学への編入や就職は考えなかったの?」
「いまとなっては、それができたらいいなと、思う気持ちもあるんだけど……」
カイくん一家や曉慧たちと別れて日本へ帰るのは、わたしだって寂しいし、できることなら帰りたくないと思う。だが、このままいられるわけではないから、仕方がない。
あと三ヶ月か。ああ、どうしてちゃんと先々まで計画してから留学しなかったんだろう。
「小鈴には日本に戻らなければならない事情があるのかな? もし特別な事情がないんだったら、せっかく中国語を勉強したんだし、いまからでも遅くないよ。こちらで生計を立てることを考えてみてもいいんじゃない?」
「そうだよー。帰るなんて言わないでさ」
せっかく仲よくなったのに小鈴が帰ったら寂しくなるわと、曉慧のお母さんも残念そうにしている。
「まだ若いんだから、やりたいことはやれるうちにやったほうがいいと、僕は思うよ」
「若いうちって、修だってまだ若いじゃない」
年寄り臭い発言をしている篠塚さんの年齢は、たしか、三十歳ちょっと手前くらいだったはず。
「僕はもう三十路だからね。先も見えてくる年齢だし、そうそう冒険はできないかな」
「私は三十歳になっても冒険していたいけどな」
「曉慧は夢追い人だもんね」
「大嫂! それを言うなら、夢を着実に実現する人って言ってよ」
口を尖らせビールを煽る曉慧を「ハイハイそうよね」と、兄嫁さんが軽くあしらう。曉慧のピッチが速い。そろそろ酔いが回ってきているようだ。
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