天空碧 — 冥婚

3/7
前へ
/187ページ
次へ
 ボランティアで留学生向けのチューターをしていたカイくんは、わたしの怪しげな中国語をからかう。そればかりか、出身地、年齢、職業、家族構成、果ては恋人の有無にいたるまで、これでもかと根掘り葉掘り質問を浴びせてきた。  初対面なのに。遠慮ってものはないのかしら?  なぜここまで訊かれなければならないのかと、内心警戒しつつもそこは、日本人の性。  親切にされれば、ついつい愛想よくしてしまうわけで。  作り笑顔で仕方なく質問に答えているうちに、カイくんは入学からアパート入居の手続きまで、手際よく済ませていった。  カイくんはさらに、家族や友人をも巻き込んだ。  狼狽えるわたしをよそに、携帯電話の契約を友だちに依頼。生活用品は、カイくんのお母さん、林媽媽(リンママ)から調達し、カイくんから呼び出された友人たちがみんなでわたしの新居へ一気に搬入。気がつけば、台北到着第一日目にして、立派な留学生ひとり暮らしのできあがりだ。  そして、最後の仕上げはなんと、林媽媽が経営する食堂での引越祝い。  勧められるままはじめての味に舌鼓を打ち、カイくんをはじめとしたみんなの優しさに驚くやら感動するやら。  あの日以来、ずっと家族同様に接してくれるカイくん一家の温かさは、幼いころ、突然父母に先立たれ、唯一の身内である叔母の家にやっかいになっているわたしにとって、掛け替えのないものとなった。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加