天空碧 — 中秋節

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「お腹空いただろう? 朝ご飯できてるから、さっさと起きて顔洗っといで」  ケラケラと笑いながら部屋を出て行く林媽媽のうしろ姿をぼーっと見送る。いったいなにがどうしてこうなっているのか。寝起きの回らない頭を無理矢理働かせてはみたものの、思い出せないものはやはり、思い出せない。  くぅ——っと、空腹を知らせる切ない音が鳴る。 「まあいいか。とりあえずご飯」  腹が減っては戦はできぬ。寝乱れた髪と衣服をざっと整え、顔を洗いにバスルームへ入った。 「小鈴、おはよう! って、変な顔!」  芙蓉姐がぷっと吹き出した。 「芙蓉姐……」  ——そんなに笑わなくても。 「ほら、突っ立ってないで早く座ったら?」 「……うん」  ——まるで狐につままれたような気分だ。  芙蓉姐の隣に腰を下ろし、ほかほか湯気を立てているお粥の茶碗を林媽媽から受け取った。  今朝のおかずは、定番家庭料理、卵とトマトの炒め物と、キュウリの和え物。それと。 「わー、腸詰め!」  甘い腸詰め——台湾ソーセージは、林媽媽の滷肉飯に次ぐ、わたしの大好物だ。  早速、皿から一切れ取って齧る。うーん。おいしい。 「小鈴、昨日食べ損なったでしょ。目が覚めたら絶対に悔しがるだろうから、焼いてないやつもらってきたのよ」
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