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─1─
外が雨音でやかましい。
だけど今は、俺達の秘め事を隠すためにわざわざ大音量で流行りの曲を流さなくてもいいから、そこだけは好都合だ。
気紛れな雨は降ったり止んだりで、傘が手放せない毎日のグズついた天候は気分を鬱々とさせる。
──今日は特に。
「なんかうわの空だな、葵」
「…っ…ちょっ、…待って…、痛っ…」
「じゃあ集中してよ。 俺だけが盛ってるみたいじゃん」
「んぁっ…そんな、事は…っ」
「今日、親いないから」
俺の右足首を持ち上げた柊一は、そう言ってニヤっと笑い、グッと腰を動かした。
深いところまで挿入されるとダメだ。
貫かれた秘部から、浮いた腰を通じて背中や腕に快感の震えが走る。
「親いないから」の意味を知る俺は、若さ故の性欲を夜通しぶつけたいと予告されて余計に興奮し、柊一の背中に爪を立てて喘いだ。
性を吐き出すための動きが早くなる。
気持ち良い事だけを追い求めて、俺は柊一に縋り付き、柊一は腰を動かしながら俺の体を痛いほど抱き締める。
「葵、好きだよ。 好き」
「…………」
一際強く抱き締められたその時、内襞が熱くなった。
柊一は生で挿れたりはしない。
ちゃんと毎回ゴムを使う柊一の精液は、まるで中に放たれたかと錯覚するほどの熱を帯びていた。
足りない。
もっと、もっと、熱くなりたい。
まだ全然足りないよ。
いつもならそう言えたのに、今日は言えない。
喉に何かがつっかえて、「好き」って言葉も返してあげられなかった。
「……葵、考え事してた? 好きって言ってくんないの?」
「……ごめん、柊一。 話が…あるんだけど」
「うん、何?」
俺が「好き」って言わないからか、柊一は少しだけ機嫌が悪そうだ。
中から性器を引き抜き、ゴムを外して処理している柊一の整った横顔を眺めた。
好きだよ、柊一。
俺から告白したんだから、当然だろ。
でも俺は耐えられない。
耐えられないよ…柊一…。
ほんの三時間くらい前の出来事を思い出す。
柊一は雑誌の読者モデルをこなすくらいの長身美形で、十七歳には到底見えない落ち着いた雰囲気を纏っている。
そんな柊一は毎日のように誰かに告白されていて、さっきも、他校の女子がわざわざ柊一に告白するためだけにはるばる俺達が通う高校までやって来ていた。
…俺は初めて見たんだ。
柊一が告白されている現場を。
『あの、あの…柊一くんの事が、好きです』
『ありがとう。 でもごめんね、君とは付き合えない』
困り顔のわりには一瞬で告白を拒絶した柊一は、しゃがみ込んで泣き始めた女の子の頭を撫でた後その場から立ち去った。
柊一が去ってしまった後も、俺は少しだけ様子を見ていた。
いつ泣き止むんだろう、大丈夫かなって。
でも、全然泣きやまなかった。
ずっとずっと泣いていた。
小降りだった雨がいよいよ大きな雨粒となって降り注いでいても、お構いなしに泣き続けていた。
そんなに、好きだったんだ…。
俺は知らなかった。
好きな人に告白して断られる切なさ、悲痛さを。
公衆の面前で我を忘れてあんなに泣きじゃくるくらい、柊一の拒絶が痛かったんだ、あの子は。
どしゃ降りになってようやく立ち上がり、雨に打たれながらトボトボと帰って行く後ろ姿を見ると無性に胸が痛かった。
──俺と付き合ってるばっかりに、柊一はこれから一体幾人に同じ思いを抱かせてしまうんだろう。
同じ事を繰り返している柊一もまた、ツラいんじゃないかなと思った。
俺達は付き合ってちょうど一年。
俺の番は、もう、終わり。
「別れよ」
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