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 俺は柊一を徹底的に避け続けた。  何日かは追い掛けてくれていた柊一も、避け続けて一週間も経つとメッセージさえ寄越さなくなった。  これでいい。  少しずつ俺の事なんか忘れて、柊一はまた新たに恋を始めたらいいんだ。  罪悪感に苛まれた柊一の苦い横顔と、告白し拒絶された女の子の泣き崩れる姿を見なくてもよくなると思うと、俺もいくらか気持ちが楽だ。  柊一が話し掛けてこなくなって、俺は教室の隅っこの住人に戻った。  俺の席にやって来て机にドカッと座り、ニコニコと笑い掛けてくる柊一の存在がないだけで、この空模様みたいに世界がモノクロだ。  窓の外を眺めると、いつも雨。  晴れ間の空が思い出せないほど、ずっと降ってる。 「えぇ!? それで、柊一は何て返事したんだよ!」  昼休み、それぞれが自由な時間を過ごしてる中、柊一がいるグループから大きな声がした。  柊一の名前が出た事に体が反応してしまって、俺はついつい聞き耳を立てる。 「いいよって」 「マジかよー! モデルのユキとデートなんて男の夢じゃん!」 「俺も読者モデルなろっかなー」 「お前じゃ無理だろ! まず柊一の顔面手に入れてから言えよ!」 「柊一、俺と顔面取り替えて!」 「いや無理でしょ」  ゲラゲラ笑い転げる派手な二人は、柊一の友達だ。  うるさいなぁと思うよりも「モデルのユキとデート」という台詞を、俺の脳が理解する事を拒否した。  誰と誰が、なんてのは聞かなくても話の流れで大体分かる。  俺と別れてまだ一週間だよ。  ……早くない…?  そのうちの三日くらいは「葵!」って必死に追い掛けてくれてたのに、そんなに早く気持ちって切り替えられるもんなの?  俺だったらそんなに早く新しい恋人は作れない。  柊一に別れを切り出した以上は、俺の事なんか忘れて新しい恋人を作ってほしいと思ってはいたけど、まさか一週間で本当に彼女を作るとは思わなかった。  でもそれだけ、柊一は引く手あまただったって事だ。  ──自分から別れよって言ったのに何考えてんだろ…。  告白された中には、柊一のタイプだった子とかも居たりしたのかもしれない。  でも俺が居たから付き合う事が出来なくて、チャンスを逃した。  柊一は優しいから、さぞ胸を痛めてたに違いない。  気持ちは嬉しいよ、でも付き合ってる人いるから応えられないんだよ、って。  俺って図々しい。  昼休みをぼっちで過ごすような寂しい俺なんかが、柊一を独り占めしてただなんて。  付き合えただけでも奇跡だったのに、俺は本当に柊一しか見えてなかったんだ。 『俺、男だよ』 『見たら分かるよ。 俺と同じネクタイしてる』 『じゃあなんで「いいよ」って…』 『告白してくれたから』 『え……?』 『好きって言ってくれて嬉しかった』 『俺は気持ち伝えられたら充分だと思ってて…』 『俺は「いいよ」って言ったよ、葵』 『……………!』 『名前、葵でしょ』  そう言って笑った柊一の笑顔が、脳裏にチラついた。  一年前の今頃、帰ろうとしていた柊一を引き止めて脈絡もなく告白した。  挨拶程度しか話した事がなかった俺に、柊一は笑顔で応えてくれた。  付き合う事になった三日後、誰も居ない校舎裏で雨宿りしながら、照れくさい最初のキスをしたっけ…。  ──過去の事。 過去の事なんだよ、もう。  窓に雨粒がたくさん付いてるから、それを数えて昼休みをやり過ごそう。  誰の声も聞こえなくなるように、無心でやれば大丈夫。  …大丈夫なんだから。
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