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(なんとかして降りられそうな場所を探さなきゃ……)   エルネストが慎重に十歩ほど進んだ時、丁度折悪く屋敷に向かって歩いてくるレナトが見えた。  まずい、と思ったが、塀の上では身を隠す術はない。  塀の上にエルネストの姿を発見したレナトは猛然と走ってやってきた。 「エルネスト様! そんなところで何をしているのです!」  エルネストは答えなかった。  何をしているのかって、そんなの一目瞭然ではないか。  エルネストが飛び降りることを躊躇している様を見て取って、レナトは気の毒そうに声を掛けた。 「今のあなたにはまだ無理ですよ。さあ、内側にお戻りください」 「無理なんかじゃない!」  エルネストは叫んだ。未だかつてこんな大声を出したことはなかった。 「そうですか、では跳んでごらんなさい。大怪我をしても良いのなら」  エルネストはぎゅっと唇を噛んだ。 (ここで跳べなかったら、オレは一生このままだ)  エルネストは恐怖を振り払って跳躍した。 「あっ! なんてことを!」  レナトは血相を変えてエルネストが落ちてくる場所に走った。  空中でバランスを崩し、ほとんど顔面から落ちそうだったエルネストを、レナトの分厚い胸が受け止めた。エルネストを受け止めた衝撃でレナトは尻もちを付き、そのまま二度ほど地面を転がった。 「あいたた、まったく、なんて無茶をしなさる」  レナトが苦痛に顔を歪める。  さすがに少し気の毒になった。 「大丈夫かいレナト?」 「私は大丈夫、鍛えてますから。エルネスト様お怪我は?」 「ボクも大丈夫だよ。君に鍛えてもらってるから」 「それは何より。これはご褒美です」  レナトはそう言ってエルネストの頭をゲンコツで軽く叩いた。 「このことを父上に言うの?」  エルネストが不安気に尋ねると、レナトは笑顔で首を横に振った。 「お父上には内緒にしておきましょう。ただし、もう二度とこんな無茶はしないと約束してください」 「わかった。約束するよ」  エルネストの答えに満足するように頷いて、レナトが立ち上がった。 「さあ、屋敷に戻りましょう」 「ねぇレナト……」 「なんですか?」 「ボクは、一生この家から出られないのかい?」 「それは……」  レナトが来るようになって約一年、口ごもる彼をエルネストは初めて見た。 「……お父上がお決めになることです」  レナトがそう言って目を反らす。相手の顔から視線を外して喋る彼を見るのも初めてだった。  この時エルネストは、自分は一生この屋敷で飼い殺しにされるのだと思った。
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