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そんな時、周りがざわついていることに初めて気がついた。ドラマや小説では珍しくもないシーンだろうけど、カフェで実際目の当たりにすることなんてめったにない修羅場。ある人にとってははた迷惑だろうし、ある人にとってはまたとない好奇。わたしに向けらる視線は好奇の度合いが圧倒的に多いような気がする。当事者じゃなければ、わたしも興味津々で楽しんでいただろう。
さすがに視線に乗ってやってくるひそひそ声にも恥ずかしさを覚えたので、まだ言い訳をしているツトムをなだめるように遮った。
「ツトム。もう分かったから、とりあえず店出よう」
まだ出せるんだと自分でも驚いたくらいの優しい声に、ツトムの顔は輝いた。解放感すら浮いている。
「許してくれるのか? 俺は許されたのか?」
三文芝居以下のセリフにわたしはイラッとする。出涸らしかもしれないけれど、わたしの優しい声を返して欲しくなる。
わたしは無言で席を立ち、横目でチラチラ探る周りの視線を受けながら歩きだす。
後ろからガタッと席を立つ音が聞こえてくる。ツトムが慌てて追ってきたんだろう。
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