分かりやすい

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分かりやすい

 その店はいつもツトムが選ぶような店じゃなかった。あれだけカフェをバカにして、昔ながらの喫茶店にしか入ろうとしなかったのに。 「のど渇いたから入ろうよ」  そう言って指差した店は全国チェーンの、しかもどちらかといえばコーヒーというよりは甘いフラペチーノとかが人気のカフェだ。  デパートや有名ブランドが並ぶ交差点は、土曜日の昼過ぎということもあって、信号待ちで四隅に人が飛び出さんばかりに溜まっている。  何もしなくても吹き出る汗。人混みに入っていれば尚更当然のことだけれど、冷夏だと言っていた気象庁に文句の一つも言いたくなる。  信号が青になり、わたし達は向かいにあるカフェに向かって歩き始める。見上げるまでもなく激しく照りつけているだろう太陽の熱がアスファルトに反射して、サンダル履きの足元を熱する。その暑さが伝ってスカートの中にこもり、歩を進める足が掻き回す。  蝉の鳴き声の代わりに聞こえる信号待ちの車のエンジン音。うだりながら歩く人々の足音。白い麻のシャツに汗が滲むツトムの背中はすぐそこなのに、わたしは行き交う人波に呑まれてはぐれた感覚に陥る。  渡り終わってあのカフェに入ってしまったら、また終わりの確信に近づいてしまいそうで不安になる反面、もういいかなと諦めの境地も見え隠れする。
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