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――鈴の音が鳴る。
ここはどこだ?
鈴が鳴ったと思えば場所は移動し、巨大なスクリーンが目の前には一つ置かれている。何も無い白い空間の中でぽつりとものが浮いている。
そう思ったその時、スクリーンには突如動画が流れ出した。蒼生はその映し出された動画を見る。すると、あることに気づく。
これは、自分の記憶だ。
「俺はお前の力になりたいんだ。」
これは、寿命が見える能力を相談しようと思っていた頃の話だ。僕が遠慮してやっぱり迷惑をかけるからやめようと思っていたところで夢翔がそう声をかけてくれた。あんな事件を起こしたのに、優しかった。けれど、その力も無駄になってしまう。
「助けてくれて·····ありがとう。」
あぁ、懐かしい。これは初めて葵を助けれた時のことだ。といってもあれは本当にちっぽけないじめのその場しのぎだけだったのに、これだけで満面の笑みを見せてくれた。嬉しかった。いつまでもヒーローでい続けられたらどれだけ良かっただろう。
「私もあなたの力になりたいの。」
とても嬉しかった。琴音からの力になりたいという言葉。葵に裏切られ、絶望に伏していた自分を救ってくれた。ありがとう。だけど、もう頑張れそうに無いかもしれない。ゴメンな·····琴音。
――鈴の音がなる
場所がまた変わる。周囲を見渡すとそこは見覚えのある風景。そう、あの花火大会で琴音と花火を見た場所だ。
ここは現実·····なのか。そう思った刹那、その考えはすぐさま否定される。何せ人が一人もいない。花火さえも打ち上がっていない。となればここは記憶の中なのだろうか。妄想なのだろうか。ってあの後ろ姿はまさか·····。
「こ、琴音さん·····なのか?」
目の前には背中を向ける琴音さんのような後ろ姿があった。
しかし、琴音さんのような後ろ姿であるだけだ。ここは一か八か話しかけてみて、違かったら人違いでしたって謝ろう。
そう思い立ち、目の前に立つ女性の右肩に手をかける。
「あの·····。琴音さん·····ですか?」
「·····蒼生くん。」
「本当に琴音さんなのか!?生きていたのか·····!」
琴音は声をかけた途端すぐさま自分の方へと振り向き、笑顔で声掛けに応答した。だがしかし、その笑顔はなんというかいつもより悲しげに思える。
っていうかいや、待て。琴音さんが生きているはずは無い。あの時、確かに死んだ瞬間を見ていたんだ。きちんとこの目で。だがしかし、今見ているのも現実なわけで·····。
「·····諦めないで。」
「へ?」
「諦めないで·····。生きて·····。強く生きて·····。」
「無理だ。もうこれ以上は生きられない。あの状況下ではもうできることが何も無いんだ。」
「できる·····。あなたならできる·····。」
「無理だ!できるわけが無い!僕には何も出来ないんだ。所詮は力のない、義を掲げるだけの偽善者なんだ。だから·····。」
「偽善なんかじゃない。あれだけみんなが感謝してる。あなたに感謝してる。」
「でも、みんなは離れてしまった。もう、誰もいないんだよ。だからもう·····。」
「私がいる。永遠にあなたのそばに居る。だから生きて·····。戦って·····。」
この僕がまだ生きられるというのか。まだ戦えというるのか。そんなことが出来るのか。いや、やるしかない。僕が·····。
「生きて·····。そして·····。」
「――この世界に花火を咲かせて。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「アッハッハッハッハッ!!」
そうだ。まだ諦めるには早い。まだ僕には動かせる手がある、足がある。呼吸もしてる、息もある。大丈夫だ。まだいける·····!!
「――んんっ!!」
蒼生は腹を突き刺しているナイフを持つ相手の手を上からつかみ、力ずくでそのナイフを抜こうと抵抗を見せる。だが、
「ハッハッハ!無駄なことを·····。言っただろう?このコートは何十倍にも攻撃力を膨れ上がるのだよ。君の力じゃ無理だね?ほらほら、力むほど血が流れてきちゃうよォ?」
意識がどんどん遠のく。もはや自分が立っているのか横になっているのか。力をどれだけ入れてるのか入れていないのかすらもわからない。だが、それでもまだ諦めない。まだ諦めるには早い·····!!
「ぐわぁぁぁ!!!」
「無理無理!!ほら、片手だけでも君の脇腹に突き刺せるよ?こんな感じでね!!」
「グハッ!!」
玲於はさらに奥へとナイフを埋め込んでいく。もう内蔵ですらも貫いているんじゃないかと思うくらいだ。
あぁ、血が臓器を伝って喉へと上がってくるのがわかる。いや、違う。もう·····
「うわぁ汚ぇ汚ぇ。血を吐くなよ汚ぇなぁ。あーあ、確かこんな感じでいじめられてたっけなぁ。こうしてみると絶景だねぇ!あははははっ!!」
何度も諦めそうになる。意識の後ろでもう諦めなよと何度ももう一人の自分が囁く。だけど、ここで諦めたらダメだ。ここで諦めたら何も生み出さない。だから·····だから·····
――諦めないで、生きて、強く生きて、
「うっ·····うぉぉぉおおお!!」
「だからぁ、無駄無駄·····って、なに·····。」
突き刺されたナイフが血飛沫を上げながら徐々に抜けていく。そう、ほんの僅かではあるが抜けている。
「そんなはずは·····。あっ、そうだぁ。そういえばまだ片手だったぁ。ほら、潔くしねぇ!!!」
「うぐっ·····!!!」
再びナイフが奥まで突き刺さり、激しい血しぶきが上がる。もう既に限界に達しているのではないか。血の3分の1を無くせば命に危険が及ぶとも言われているが、もはやその域を超えているのではないかとまで思う。だが、
「まだだ·····まだ負けねぇえええ!!!」
「なっ·····嘘だ·····そんなはずは·····。」
両手で押えたナイフ。だが、それでもなおナイフは徐々に抜け始める。これだけ血を出血させといて、もう脳に酸素がいってないくらいの量を出血しているのに、これだけの力を残している。
「嫌だ。そんなはずは無い。なんでだ。なんでいつもこうやって負けて何も得ることが出来ないんだ。お、おかしいじゃないか。俺の人生なんだぞ!俺の時間なんだぞ!それなのに、それなのにィイイ!!!」
「うおああああああああ!!!」
「――グハッ·····!!!」
蒼生によって抜かれたナイフ。そのナイフは蒼生の手に渡り、そして、玲於を、刺した。
最後の力だった。全力の力。もはや脳すら回っていない。全身の全ての力をそこに注ぎ込み、そして玲於へと穿った
「い、痛い!やめろ!はなせ!あぁ、血が·····血がァァァァ!!!」
これでよかったのか分からない。果たして相打ちでよかったのか。きっと琴音さんに聞いたら怒られるだろうなとも思う。うん、きっと優しい琴音さんならそういうに違いない。
生暖かな光が蒼生を取り巻く。
何故か琴音さんが近くにいるように感じる。いや、自分が近づいているからなのかもしれない。
僕に生きてと伝えた琴音さん。僕も生きて、琴音さんの願いを受け止めたいと思ってはいたが、どうやらこれでおしまいのようだ。
死ぬのは逃げなのかもしれない。だけど、自分が出来ることはもう精一杯頑張った。手が動く限り、足が動く限り、息のある限り、精一杯。だからもう、これで、楽にさせてくれ·····
――い·····いぶ·····
誰かの呼ぶ声がする。あぁ、そうか。琴音さんが呼んでいるのかもしれない。
あ、そうだ。天国に行ったらまた話の続きをしよう。たくさん話して沢山喋って、最後には付き合えたらいいな。うん、そうだ。そうしよう·····。
――いぶ·····いぶき·····!!
あぁ、疲れた。もうすぐ楽になれる。
鼓動が止まって、呼吸が止まって、臓器が動かなくなって、最後には·····。
あぁ、
死んだ。
『死神の生まれ変わり――完』
ここまで読んでいただきありがとうございます。死神の生まれ変わり現代編の完結がただ今成りました。
ここまで本当に長かったです。ですが、これからもどんどん続きを書いていくのでよろしくお願いします!!
また、スター特典にてお話のモデルとなった曲や裏話等が公開されていますので是非ご覧ください。
ここまでお読み頂き本当にありがとうございました!!
白石 楓
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