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零日目 プロローグなどない
――これは一体なんだ。
混雑する駅、ざわめく商店街、閑静な住宅街。ここには問題はない。いつも通りの光景だ。だが、人の上に数字が見えるとはどういうことなのだろうか。
いや、もしかしたらこれはまだ夢かもしれない。そんな薄れた希望を持ちながら、学校へと歩いて向かう。
学校へ着くと、やはり多くの数字が頭の上に浮かんでいる。とても非現実的な光景だ。
蒼生はその数字を避けるかのように顔を下に向け、教室まで階段をのぼり、廊下を歩き、学校内を突き進む。
一体この状況をどう判断すればいいのだろう。そもそもこんなこと誰に話しても厨二病だって言われるだけ。まさか本当に精神的におかしくなってしまったのか。精神科の病院に行かなければならないのかと思うと気が遠のく感じがする。
遡ること昨日の夜。
僕はいつも通り晩御飯を食べて、テレビを見て、YouTubeを見てという怠惰な生活を送っていた。そんな中、あるひとつの動画をYouTubeで見つけた。それは都市伝説なのだが、ネット内でその人がいつまで生きるのかを言い当てられる人が存在するという都市伝説であった。
その内容がなかなか面白いものであり、その人は主にネット内で一般人に向けて寿命を予言していたのだが、実は裏でその予言に殺し屋が関与していたのではないかという都市伝説であった。
だが、僕はこう思ったんだ。もしも、本当に寿命が見えていたのだとすればどうなのだろうかと。
そう思っていたらいつの間にか寝落ちをしていて、気がついたらこの有様になっていたというわけで·····。
そう過去を振り返っていたその時、蒼生は人にぶつかったような衝撃を覚え、この場を収めるためにとりあえず謝ろうとして顔を前に向けると、よく見覚えのある顔をしたやつが目の前に立っているのに気づいた。
「なんだお前かー!謝ろうとして損したわー。」
「損ってなんだよ!ちゃんと目の前見て歩けよな。」
こいつは僕の友達で、名前は真田 夢翔という。幼き頃に公園で会い、その後は小学校、中学校共に同じ所へ進学した。そして、現在では兄弟のような仲になっている。
そんな兄弟同然のような夢翔にもやっぱり数字は付いている。この74という数字。果たしてこれは寿命なのだろうか。
「おいなんだ?俺の頭になにかついてんのか?」
「あ、いや。そういうわけじゃないんだ。ごめんね。」
「蒼生、今日はおかしいぞ?好きな人のことでも考えてたのか?」
「す、好きな人!?そんなわけないだろ!」
やばい、つい大声で叫んでしまった。その声で廊下に屯っていた人達からの視線は僕の方へと集まり、刹那の注目を浴びる。
しかし、夢翔も夢翔だ。好きな人がいるということは夢翔にしか教えておらず、ほかの友達に知られたら面倒なことが起きる。だから公衆の場では恋愛関連の単語を言わないということを約束していたのに、こいつというやつは·····。
でも、よく考えてみろ。少なくとも見てきた中では全員数字が書かれている。ということはこの状況から察するに、僕の好きな人の上にもみんなと同じ数字が書かれている、ということなんだろう。
「おーい、またぼーっとしてるけど大丈夫か?」
蒼生は「え?」と聞き返す。
そういえば、今日はこの謎現象のことばかり考えているけど、何か大事なことを忘れているような気が·····。
その瞬間、建物内に大きな音が響いた。そう、中学生が恐れるべき敵、チャイムだ。
蒼生達の学校では月に3回以上遅刻すると廊下に呼び出されるのだが、今月は今回を含めると·····3回だ。
「あ、やべ。チャイムがなっちまった!急ぐぞ!」
蒼生はその後、遅刻で朝学習の呼び出しをくらってこっぴどく怒られた。
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