弐日目 苦しみの絆

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 誰もいなくなった屋上には爽やかな風が吹き抜ける。  私はふと誓い合ったあの日のことを思い出していた。  あれは小学4年生の頃。私はカースト上層部の女子に目をつけられてしまい、男子だけには態度が違うと噂を流されたことがきっかけとなりいじめにあっていた。  いつも登校する度に机の上には花が刺さった花瓶が置いてあったり、さらに事実ではない噂をクラスや学年全体に流されたり、ひどい時には階段から突き落とされたりしたこともあった。  そして自分の所属していたグループの人達からは話しかけても無視をされ、仲の良かった男子達にも気持ち悪いから近づくなとか言われたり、最後には男子から暴力を受けるなどとかいうこともあった。四面楚歌。私の周りにはもう味方してくれる人はいなくなってしまったのだ。  そんな絶望的な日々を送っていたある日。死にたいと願い始めていた私の目の前に1人の少年が救いの手をのべた。大丈夫か葵。そう言葉を投げかけてくれたのは幼なじみであった細川蒼生という人物であった。  そしてその時、蒼生は私とある誓いを立てた。この学校から、世の中からいじめを共に無くそう、と。  蒼生はまだあの頃は私よりも小さくて、腕も細くてガリガリで、僕が守るよと言われた時は心配で心配で仕方がなかった。  だけど、蒼生は本当に私を守ってくれた。救ってくれた。蒼生は私がいじめられている時の動画を撮り、それを証拠に先生へと報告し、いじめていた人達は言い逃れが出来なくなり、私からいじめといういじめは無くなった。蒼生は力では勝てないと判断し、知力で戦ったのだ。そのいじめが解決したのは始まってからおよそ一年後の出来事だった。  これで全て終わったと思っていた。平和になったと思っていた。だけどそれは見せかけの平和だった。  ある日、私が家へ帰ろうと校門前まで来ると体育館裏で何やら騒ぎが起こっているのに気づいた。私は気づかれないようにこっそりとその場を覗くと、その惨事に私は絶望した。  血だらけで倒れる蒼生の姿。そして蒼生を蹴り続ける男子4人がその場を囲っている。  私はその時全てを知った。蒼生は自分を犠牲にしていじめを止めていたのだ。確かに、証拠動画を撮っていじめを無くすのは賢いやり方ではあった。しかし、そのせいで自分にヘイトが向きいじめられてしまっていた。  私はその場を静かに離れた。自分のせいで蒼生がいじめられているなんて思いたくなかった。顔向けができなかった。いじめは無くならなかった。その気持ちに耐えられず、私はその場から逃げたのだ。  それから今現在まで蒼生とはほとんど話すことは無かった。いや、私が避けるようになっていたのだ。もう関わらまいと、二度と迷惑をかけまいと。  だから本当はこんなことをしたくはなかった。命の恩人であり、親友である蒼生には。したくなかったのに·····。 「あと少しだったのになぁ。お前、なんであそこでトドメを刺さなかった?」 「れ、玲於!?なんでこんな所に!」  突然目の前に現れたのは制服のYシャツ姿の人物――浅間玲於。彼は小学校時代の頃に蒼生と仲の良かった人物だ。しかしなぜ違う学校のこいつがこの学校にいるんだ。 「あー、実はサッカーの事でこの学校に用事があってね。そんでついでに屋上にいる君の様子をちょっと覗いていこうと思ってしばらく見させていただいたよ。」 「そういう事ね·····。ねぇ玲於。もうこういうの止めない?私、やっぱり蒼生のことなんて傷つけたくない。これ以上迷惑をかけたくないの。」  葵が涙を流しながら玲於に向かってお願いするように訴える。しかし、その言葉を聞いた玲於はなんの反応もせず、葵の目の前まで近づき口を開く。 「何を言ってるんだよ葵。だから前も言ったじゃないか。また迷惑をかけたくないんだよね?だったら二度とそんなことが起こらないように蒼生を痛めつけて、琴音さんから身を引かせるんだ。そうすればお前は琴音さんを潰すことが出来て、いじめ自体を無くすための第1歩となる。まさにウィンウィンでしょ?」 「そう·····なのかな。私、もうわかんないよ。どうすればいじめはなくなるの?どうすれば蒼生を傷つけずにいられるの?もう死にたい。もう分からないんだよ!!」  葵の目は涙に溺れ、叫びと共に崩れ落ちる。玲於はその崩れ落ちる体をとっさに掴んで、自分の体へと寄りかからせる。 「そうだよね。分からないよね。だって君は本当の友達がいないんだもん。僕と同じように·····。だから全て僕に身を委ねればいいんだ。君は間違ってない。僕がそばにいてやる。」  その言葉を聞いた葵は泣きながらも深く頷く。  ――泣いている葵を抱きしめる少年。しかし、その少年の顔は泣く葵とは相対して笑っていた。
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