零日目 プロローグなどない

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 ――1時間から数学か。  数学はどうしても気が進まない。  僕は数学が昔から苦手で、よく分からない数列とかを見ると吐き気がしていたものだ。これはある意味恐怖症なのかもしれない。  だが、今は別の意味で恐怖症になりかけている。クラスの40人全ての人の頭上には多くの数字が浮かび、まるで数列を見ているようで吐き気がしてくる。  75、81、77·····。もしこれらの数字が本当に寿命ならば、僕に何の得があるのだろう。僕にはしなくてはならない使命的な何かがあるのか。  そういえば、僕の好きな人にはなんと書いてあるんだろう。目が悪くてよく見えないな。あの数字は―― 「じゃあここの問題を·····。細川、答えてみろ」 「7!?」  蒼生はいきなり指名されたことに驚き、頭に流れていた7という数字を大声で叫んでしまった。その結果、周りからは笑いが漏れている。先生はその状況を見かねたのか、もしくは呆れたのか、蒼生に何も言うことは無く他の人を指名し始める。  黒板を見てみると、当てられた問題は一次関数の問題。xもyも値を言っていないのだから、話にならない。完全にやらかした。  しかし、7という数字はどういうことなのだろう。7年間しか生きられないということなのだろうか。そんなの信じたくない。  それに目が悪いからよく見えないけど、「7※」と書いてあるような気がする。もしかしたら、信じたくないという感情がそういう幻覚を起こしているのかもしれない。まぁ元から幻覚みたいなものだけど。  笠原 琴音(ことね)。僕の好きな人の名前だ。  クラスの中ではあまりワイワイするようなタイプではなく、どちらかと言うと物静かな人だ。頭はあまり良い方ではないが、顔は学年でも三本の指に入る位の強者。  しかし、好きな人の寿命が短いと分かるとなると、なんて言うか悲しくなるを越して怖くなる。どうにかして救う手立てはないものなのか·····。 「おーい蒼生、何ぼーっとしてんだ?もう授業終わったぞ?」  夢翔が蒼生の肩をトントンと叩きながら話しかける。その声に気づき、蒼生は「え?」と聞き返し周りを見渡す。どうやら、考えている間に授業が終わっていたようだ。  幼なじみである真田夢翔。  いきなり人の寿命が見え始め、好きな人の頭には7という数字。つまり好きな人は7年間しか生きられないのだとこの人に言ったら、この人は、夢翔は信じてくれるのだろうか。  いや、もう僕には分かっている。  今の僕らは小学生なんかじゃない。きっと厨二病だとか精神科行けとか笑ってまともに聞いてくれないことくらい。分かっているんだ。だけど、期待をしてしまうんだ。もしかしたら幼い頃から共に育ってきた夢翔ならば信じてくれるんじゃないかと。 「あのさ、夢翔。今日って部活ある?話したいことがあるんだけど。」 「恋の相談か?なら、サッカー部の休憩時間中に聞いてやるよ。」  蒼生は恋の相談という言葉に少々動揺し、顔を赤らめながらも「分かった」と返事をする。  この問題は中学二年生の自分でも深刻だと思う。この状態を治す手立てを考えなくては行けないし、好きな人も助けなければいけない。とすると1人で抱え込むのは無理だと思う。  果たして、夢翔はこんな馬鹿げた話を信じてくれるのだろうか。  そんな不安を抱えながらも、次の授業である体育を受けるために更衣室へと走った。
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