生前の死因

1/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

生前の死因

ぼけぇっと一人、外に出て海を眺めながら、休日を過ごしていた。 空がオレンジ色に滲み出し、そろそろ日も暮れようとしている。 すると、隣に少年が腰掛けた。年の頃は6、7才か。 話したことはないが、顔は知っている。 彼の両親がこの辺りでは、有名なのだ。父は大学教授、母は童話作家として成功し、お金持ちである。 街から離れたこの海沿いに大きな別荘を持ち、休みとなればここに足を運ぶ一家である。一帯をふらついていれば、通りや公園で彼らを見かけることもある。 確かこの少年は、一家の末っ子だったと思う。 もう何年も前のことだが一度、夫婦には、余った農作物や魚を分けたこともあった。 彼ら一家の別荘は、俺がぼけぇっと過ごすここからも、振り返れば視界に入る。距離はあるが、他の家と比べ頭一個も二個も大きく、目立つのだ。 「ねえ、おじさん」 四十を超えてるが、見た目が若いとよく言われる。少年とはいえ、失礼な第一声である。 「どうした、少年」 顔は見かけたことはあったが名前は知らない。 「少年、なんて変な呼び方しないでよ。リクっていうんだ」 「そうか。どうした、リク 」 「おじさん、よくここにいるよね」 「おう、見てたか」 「見てたっていうか、目につくからさ」 お互い「顔見知り」ではあったらしい。 「でね、聞いてほしいことがあってさ」 「俺でいいのかか」 「うん、親とか先生には話しにくいことだからさ、なんも関係のないおじさんくらいがいいんだ」 「なるほどな。ま、いいや。聞かせろよ」 「あの、変な話なんだけどさ、ぼくはね、一回死んでるんだ」 「は……?」 急に、何を言いだすのだ。 「変に聞こえるかもしれないけどさ。生まれる前の記憶っていうの? それが最近、バババって頭の中にでてきて。お父さんやお母さんにもちょびっと話したんだけど、不思議そうな、困ったような顔をするだけなんだ」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!