生前の死因

2/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
聞いたことはあった。 生前の記憶をもつ子供たち、という特集をかつて、オカルト番組でも見た。 子供たちの言葉を頼りに調べると、彼らの言うような人生を送り、死んだ人間が遠い国で実際に見つかったりもしていた。 俺にはそのテレビ番組にしたって、目の前の少年、リクの発言にしたって、どこまでが本当の話かなど、わからない。 ただ、リクの話し方や表情を見る限り、ふざけているようにもまた、見えない。真剣な眼差しである。 「この記憶、どうしようかなって悩んでるんだ。あんまりそんな話ばかりしてると、変なやつだって思われそうだし。 死んだときのこともね、はっきり覚えているよ。ぼくはね、殺されたんだ」 「殺された?」 「うん。生まれる前のぼくもまだ子どもで、子どものまま死んだんだ。ぼくを殺したその大人は嫌がるぼくを、無理矢理引っ張ってね。 嫌だ嫌だって言ってるのに、引きちぎれそうなくらい引っ張って、血が出てもそんなことお構いなしに引っ張ってさ、 そして寒い部屋の中に、裸のまま閉じ込めたんだ。その寒さに耐えられなくなって、前のぼくは死んじゃったの」 リクの唇が、思い出すのもおぞましいのか、微かに震えていた。 もしそれが本当なら、残酷な話である。信じがたい行いだが、広いこの世界には、そんな輩もいるのだろう。 「どうして、こんな嫌な記憶がのこってしまったんだろう。 だいたい、ぼくはどうして生まれ変わったんだろう、なんてことでも悩んじゃってさ」 「寒くて苦しかったんだろ。その辛い思い出から解き放たれるために、生まれ変わったんじゃないか。 いまの家はどうだ? 暖かくはないか?」 「あったかいよ、家の中も、お父さんもお母さんも。おじさん、その考え方いいね、ありがとう」 リクはにっこりと笑ってこちらを見た。少年らしい、純朴な笑顔だ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!