chapter1 Mの誘惑/汚れた街の女王

1/5
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

chapter1 Mの誘惑/汚れた街の女王

 酸味を含んだ悪臭が、僕の鼻を刺激する。下水の臭いだ。  まともに清掃されていない上に、ヘドロやら汚物やらが我が物顔で鎮座している。  暗がりからは襤褸切れを纏った老人が酒瓶を手に壁に背もたれ、昼間なのに風俗店の看板がけばけばしい色で発光していた。  酷い街だ。録な所がない。  それが、僕がこの街…スペルマシティに抱いた第一の感想だった。  僕の名はゴウ・ルーデンボール。  年齢は29歳。国際連邦警察の捜査官で、階級は警部。  連邦警察学校をそこそこの成績で卒業し、連邦警察中央部に召し抱えられていた(あまり好きな言い方ではないが)エリート官僚…だった。  つい、1ヶ月前までは。  事の始まり、いや、ケチのつけ初めは上司の不正を発見したことからだった。  僕は国家公務員の正義感から上司を告発しようとしたのだが、逆に濡れ衣を着せられあえなく失敗。  本来なら懲戒免職(クビ)になる所をさる人物に拾われる形で、この街に異動した…と言う訳だ。  今思い出しても(はらわた)が煮え繰り返る。  あの時、しっかり証拠を固めておけば良かった。不正を押し付けられた時も、逆上して上司を半殺しにしなければ、こんな事には…。  いや、過ぎた事は考えまい。  何処に飛ばされようと、警察官のやることに変わりはない。が、問題はその場所にあった。  スペルマシティは、二つの区域(スクエア)からなる複合都市である。  人口約800万。東側を『ペニスクエア』、西側を『クリトリスクエア』と呼ばれており、様々な人種が混在している。  世界最多の風俗店数を誇り、犯罪発生率は90%。世界有数の歓楽街で、犯罪都市だ。  そんなマトモでない街だから、治安を守る支部局もマトモではない。  中央からは『連邦警察の恥部』『人材のソープランド』と呼ばれ、過激にして苛烈な支部長の元、問題だらけの捜査官が揃っている…らしい。  上層部(うえ)も、勝手に死んでくれることを期待しているのだろう。  不正でクビにしました、よりは言い訳が付く。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!