32人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
chapter1 Mの誘惑/汚れた街の女王
酸味を含んだ悪臭が、僕の鼻を刺激する。下水の臭いだ。
まともに清掃されていない上に、ヘドロやら汚物やらが我が物顔で鎮座している。
暗がりからは襤褸切れを纏った老人が酒瓶を手に壁に背もたれ、昼間なのに風俗店の看板がけばけばしい色で発光していた。
酷い街だ。録な所がない。
それが、僕がこの街…スペルマシティに抱いた第一の感想だった。
僕の名はゴウ・ルーデンボール。
年齢は29歳。国際連邦警察の捜査官で、階級は警部。
連邦警察学校をそこそこの成績で卒業し、連邦警察中央部に召し抱えられていた(あまり好きな言い方ではないが)エリート官僚…だった。
つい、1ヶ月前までは。
事の始まり、いや、ケチのつけ初めは上司の不正を発見したことからだった。
僕は国家公務員の正義感から上司を告発しようとしたのだが、逆に濡れ衣を着せられあえなく失敗。
本来なら懲戒免職になる所をさる人物に拾われる形で、この街に異動した…と言う訳だ。
今思い出しても腸が煮え繰り返る。
あの時、しっかり証拠を固めておけば良かった。不正を押し付けられた時も、逆上して上司を半殺しにしなければ、こんな事には…。
いや、過ぎた事は考えまい。
何処に飛ばされようと、警察官のやることに変わりはない。が、問題はその場所にあった。
スペルマシティは、二つの区域からなる複合都市である。
人口約800万。東側を『ペニスクエア』、西側を『クリトリスクエア』と呼ばれており、様々な人種が混在している。
世界最多の風俗店数を誇り、犯罪発生率は90%。世界有数の歓楽街で、犯罪都市だ。
そんなマトモでない街だから、治安を守る支部局もマトモではない。
中央からは『連邦警察の恥部』『人材のソープランド』と呼ばれ、過激にして苛烈な支部長の元、問題だらけの捜査官が揃っている…らしい。
上層部も、勝手に死んでくれることを期待しているのだろう。
不正でクビにしました、よりは言い訳が付く。
最初のコメントを投稿しよう!