青の小夜曲

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 そんなことを考えながら、黒川君たち男子の後ろに付いて歩いていると、最上先生が階段の上から下りてくる姿が目に入った。  先生は大量のプリントを両手で抱えており、あまり足元が見えていないようだ。  あれでは危ないのでは、と思った矢先、案の定先生は、あと一段、というところで階段を踏み外し、滑って転んでしまった。手に持っていたプリントが舞い上がり、紙吹雪のように落ちてくる。 「あっ!」 「先生、大丈夫ですか?」  私と香澄が慌てて駆け寄ろうとしたら、私たちより先に動いた人がいた。黒川君だ。 「先生、大丈夫?」  黒川君は心配そうな顔で腰をかがめると、最上先生に手を差し出した。 「痛たた……」  最上先生は思い切りしりもちをついたのか、顔をしかめながらも、黒川君の手は取らずに立ち上がった。そして、身をかがめてプリントを拾おうとしたのだが……。 (あっ!先生、タイトスカートの後ろ、破れてる!)  膝の後ろのスリットが裂け、もう少しで下着が見えてしまいそうなギリギリのラインまで届いている。 (わーっ、先生、前かがみになっちゃダメだよ~!)  先生に教えてあげなければと近づこうとしたら、 「階段で足を踏み外すなんて、先生、可愛いところあるんですね」 やにわに黒川君がシャツを脱ぎTシャツ姿になると、脱いだシャツを後ろから先生の腰に回し、長袖をきゅっと縛った。  一瞬、抱きしめられたような形になった先生が「えっ」と言う顔で黒川君を振り返る。  黒川君はすぐに先生から離れると、 「俺が着ていたもので、すみません」 にこっと笑うと、廊下に散らばっているプリントを拾い始めた。香澄と矢場君も同じように拾い出したので、私も手伝おうと近づき、今だ呆然としている先生の耳元で、 「先生、スカートの裾、破れてますよ」 と囁いた。 「えっ!?」  目を見開いた先生の顔が、みるみる赤くなる。いつもクールな表情を崩さない最上先生のこんな顔を見るのは初めてだ。  プリントを拾っている間にチャイムが鳴り出したので、私たちは慌てて全てのプリントを纏めると、立ち尽くしている先生の手に押し付けて、階段を駆け上がった。
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