158人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
6月中旬になり、すっかり雨にも飽きた頃。今日は久々の梅雨の晴れ間。
終礼が終わった後、荷物を纏め、クラブに向かおうとしていた私に、黒川君が声を掛けて来た。
「今日も家庭科部なの?文月さん」
「うん、そうだよ」
「今日は何を作る予定?」
「りんごのパウンドケーキ」
「わぁ!滅茶苦茶美味しそうじゃん!」
そう言って笑顔を浮かべている彼は、ここ数週間、ずっと爽やかイケメンモードのままだ。どうやら次の舞台は7月初旬にあるらしい。稽古期間が長いらしく、黒川君の人格も安定しているようだ。
「普通の男子高校生」な黒川君にすっかり慣れてしまい、今までの彼が夢だったのではないかとさえ思ってしまう。
「焼けたら、俺にも味見させてよ。待ってるから」
「え?でも時間かかるよ?黒川君、今日はお稽古ないの?」
「今日はオフなんだ」
せっかくのオフなら、早く家に帰ってゆっくりしたほうがいいのではないだろうか。きっと普段は忙しいだろうから……。そう思って、
「帰らなくていいの?」
と尋ねると、
「家に帰ると怠けそうだから、中庭で自主練しようと思ってるんだ。だから、文月さんがケーキを持って来てくれる頃には、ちょうど疲れて甘いものが欲しくなってる時間だよ」
との答えが返って来る。そこまで言うのならと、
「じゃあ、出来たら持って行くね」
と約束すると、
「楽しみに待ってる!」
黒川君は笑顔で頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!