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その時、
「ただいま~」
玄関から父親の声が聞こえて来た。
「いや~、疲れた疲れた」
そう言いながらリビングへ入って来た父親は、ゴルフバッグを背負っている。今日は会社の得意先との、ゴルフコンペだったらしい。
「おかえり。ゴルフどうだった?」
私が問いかけると、父親は笑顔を浮かべ、
「聞いて驚け!優勝したぞ!」
とピースサインを出した。
「えっ、親父、マジ!?」
漫画から顔を上げた卓也が、目を丸くして父親を振り向く。
「これがマジなんだな」
卓也の口調を真似て、自慢げに胸を張った父親に、家事が終わりダイニングテーブルでお茶を飲んでいた母親も、
「あら、あなた、すごいわねぇ!」
と感嘆の声を出す。父親はゴルフバッグをリビングの隅へ立てかけながら、
「そうだ、朱音。これをやろう」
バッグの中から、おもむろに金封を取り出した。
「もしかして優勝賞金!?くれるの!?」
思わず目を輝かせた私に、
「馬鹿。違うよ。まあ、開けてみなさい」
父親は苦笑しながら、金封を手渡した。
言われるがまま封を解くと、
「ファンタジーランドの招待券?」
中からテーマパークの入場券が出て来た。2枚ある。
「友達と行ってきたらどうだ?」
「わあ、ありがとう!」
気前のいい父親に満面の笑みを向けると、父親は私の頭を一度ぽんと軽くたたき、母親の隣に腰を下ろした。
「え~、親父、俺にはないのかよ?」
卓也が唇を尖らせ文句を言ったが、
「お前は夏休みも野球部の練習で忙しいだろう。それに1学期の成績が悪かったから、ナシだ」
と一蹴されてしまう。
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