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(結局、誘ってしまった……)
私はファンタジーランドの前の駅の改札口で、黒川君を待っていた。
(誘い方が、ちょっと言い訳がましかったかな)
父親がゴルフコンペで入場券を貰って来たこと、2枚しかないので女友達を誘うには枚数が足りないこと、仕方がないので黒川君を誘うことにしたこと……等々を書いてメッセージを送ると、意外にも黒川君からOKの返事が来たので吃驚した。
(これも、来るもの拒まずの一環なのかな?)
そう考えて、納得をする。
すると、
「文月さん、お待たせ」
背後からぽんと肩を叩かれ、私は驚いて振り返った。
「黒川君!」
ブラックデニムに半袖シャツ姿の黒川君は、髪形もばっちり決まり、爽やかな笑顔を浮かべている。
(なんだ、今日はイケメンモードなのか……)
そう考えて、「あれ?」と思った。
(ん?なんで、「なんだ」なんだろう?)
自分の考えに首を傾げていると、
「今日は誘ってくれて、ありがとう」
黒川君は目を細めて笑った。そして、
「さあ、早く行こう~、夢の国へ~♪」
突然、歌い出した!
「え!?」
思わず固まった私の手を取り、
「僕らは向かう、夢の国へ~♪愛と希望を胸に抱き~♪」
スキップをしながら引っ張っていく。
「え、え、え」
急展開について行けず、私は馬鹿みたいに「え」を繰り返すばかりだ。
入場ゲートで券を見せて中へ入ると、黒川君は大きく両手を上げて天を仰いだ。
「ついにやって来た、ここは夢の国♪僕らは歌う、声高らかに~♪さあ、君も一緒に♪」
私を振り返り、歌うように促す。
(さては……)
私はようやくピンと来た。
(今日の黒川君は、ミュージカルモードなんだ……!)
これは大変なことになった。このテンションに、1日ついて行けるだろうか。
「さあ、どこから回る?冒険の国?お伽噺の国?それとも未来の国~?♪」
「え、えっと……冒険の国かな」
おずおずとそう言うと、黒川君は、チッチッチと指を振った。
「元気がないよ、マリー。君も歌うんだ」
(私、今日はマリーなんだ……)
口元を引きつらせながら、
「た、楽しみだなぁ~♪」
滅茶苦茶な節を付けて歌い返すと、私の歌に黒川君は満足げに頷き、
「さあ、行こう♪」
私の手を取り駆け出した。
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