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海賊の入り江の前に着くと、結構な行列が出来ていた。待ち時間は60分と表示が出ている。
「時間が掛かりそうだなぁ。どうする、黒川君、どこか別のところへ行く?」
そう言って黒川君を振り向くと、
「わぁあああん、おかあさぁあん!」
泣きながら歩いている小さな女の子が目に入った。年の頃は3、4歳ぐらいだろうか。その子に気づいた黒川君がすぐに近づいていくと、
「どうしたんだい、リトルレディ♪」
歌いながら問いかけた。
突然近づいて来たお兄ちゃんが歌いながら話しかけて来たので、女の子は一瞬泣き止み、きょとんとした顔をした。けれど、すぐにまたべそをかき出し、
「ひっく、おかあさんが、いなくなっちゃったの、ひっく、えっぐ」
と、鼻水でぐしょぐしょになった顔を擦る。
「おお、それは可哀想に♪お兄ちゃんが一緒に探してあげよう~♪」
優しく女の子の頭を撫でた黒川君に駆け寄り、私は彼の腕を掴んだ。
「それより迷子センターに行く方がいいよ。お母さんも探しているかもしれないし」
「それもそうだ、マリーの言う通りだ。では、いざ行かん、迷子センターへ~♪」
ふたりで両側から女の子の手を握り、迷子センターへ向かう道中、黒川君は、
「君の名前は何て言うの♪」
「まな」
「まなちゃん、いい名前だね~♪お兄ちゃんは、ピーターさ♪」
女の子――まなちゃんに偽名を教えている。
「ピーターおにいちゃんはおうじさまなの?」
少し泣き止んだまなちゃんは、黒川君の顔を見上げて小首を傾げた。こんな子供でも、黒川君のイケメン具合は通じるようだ。
「王子様?違うよ、僕は永遠の子供さ~♪」
黒川君は秘密を教えるかのように唇に指をあて、片目をつぶって微笑んだ。その笑顔はとても素敵で、
(ミュージカルモードの黒川君もやっぱり格好いいなぁ……)
私は思わず頬を赤らめた。
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